【パスカル・シアカムのトレードが成立!】ラプターズとペイサーズの狙いを考察

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2023-24シーズンのTDL(トレードデッドライン)の目玉選手の1人であったラプターズのパスカル・シアカムのペイサーズへの移籍が2024年1月18日に確定した。

トレード詳細

Pascal Siakam
2巡目指名権

Bruce Brown
Jordan Nwora
Kira Lewis Jr.
2024年1巡目指名権
2024年1巡目指名権
2026年1巡目指名権


現金

シアカムを巡ってはペイサーズをはじめマーベリックスやウォリアーズが獲得を目指していたと報道されており、シアカムの動向が注目されていたが、最終的にはペイサーズとのトレードが成立した。

今回のトレードは、一見するとラプターズ・ペイサーズ・ペリカンズの3チーム間での取引に見えるが、実際にはペイサーズとペリカンズのトレードが先に成立しており、カイラ・ルイスJr.はペイサーズを経由してラプターズに移籍している。

目次

ペイサーズのシアカム獲得の狙いと展望は?

ペイサーズは2024年1月18日時点で東地区の7位におり、プレーオフ進出が現実的に見えている状況だ。これはタイリース・ハリバートンによるパッシングオフェンスを主軸にした結果であり、プレーオフ進出を確定的にするためにはハリバートンに次ぐ2番手選手の獲得が課題となっていた。

ハリバートンとシアカムの相乗効果

シアカムとしては、キャリアを通してハリバートンほどのプレーメイク力を持つPGとプレーした経験はない。一番近いのはカイル・ラウリーだが、それ以外はオフェンス思考のPGと組むことが多かった。 平均20点のオールスター選手であるシアカムが、ハリバートンのようなプレーメイクに長けたPGと組むことでスコアリングをより優位に進めることができる可能性は非常に高い。特にハリバートンのアップテンポなオフェンスはシアカムの走力を活かせるだけでなく、スクリナーとしても優秀なシアカムとのピック&ロールは厄介なオフェンス選択肢になるだろう。

ベネディクト・マスリンやアーロン・ニースミスといった若手選手が大きく成長しているペイサーズでは、ロスターの多くが10点以上を獲得しているためシアカムのスタッツは以前よりも下がる可能性が高い。 しかし、今季のシアカムからのアシストによるFG%が59.4%という数字を記録しているということから、シアカムの加入によってオフェンス全体が効率化され、勝負所ではシアカムの1on1の突破力が武器となる場面もあるだろう。

ディフェンス面での期待

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ペイサーズは2024年1月18日時点でリーグ1位のオフェンスを誇っている一方、リーグ26位のディフェンスが明確な弱点となっている。 2023-24シーズンの目標であるプレーオフを確実なものにするためにはディフェンスの向上が絶対条件だ。

シアカムは対人ディフェンスについては2022-23シーズン以降は軒並み低下しているため、シアカムを獲得してもディフェンスの向上には繋がらないように思える。しかし、ニック・ナースがチームディフェンスに重点を置いていた2021年頃までの数字を見るとペリメーターディフェンスは平均以上の数字を出している。この時期のラプターズはヘルプディフェンスを多用しており、当時所属していた渡邊雄太も「覚えることが無数にあった」と述べるほど複雑であった。この時期においてシアカムの機動力はラプターズの武器の1つであったことは間違いない。

ペイサーズにはマイルズ・ターナーというリーグ屈指のリムプロテクターがいるが、ペリメーターやヘルプディフェンスに問題を抱えていることから、機動力のあるシアカムの加入によってペイサーズのディフェンスが向上する可能性はあるだろう。

シアカムとの再契約問題は?

オールスター級の能力を持つシアカムのトレードがラプターズの思惑通りのアセットにならなかった理由は、シアカムの契約問題にある。シアカムは2023-24シーズン終了後にFAとなることを示唆しており、MAX契約を望むと言われている。 それにも関わらずペイサーズがシアカムを獲得したということは、チームはシアカムの再契約に一定以上の自信を持っていると考えていいだろう。

ペイサーズがシアカムとの再契約に前向きな理由としては、ハリバートンがシアカムを勧誘したという報道が挙げられる。また、シアカムはリック・カーライルHCとの関係が良好であるとも言われており、チーム構築で重要な2人との関係性が既に構築されている。

また、金銭面においてもペイサーズは今回のトレードでシアカムのバード権も取得しており、シアカムがFAとなった場合でもサラリーキャップを超えた上限額で契約できるため、ペイサーズは他チームよりも高額でオファーできる。また、ペイサーズはサラリーキャップにも余裕があることから、金銭面においてもペイサーズは他チームよりも有利な状況にいる。

2023-24シーズン後半が期待できるものであれば、シアカムの残留確率は大きく上がるだろう。

ハリバートンの次の契約延長を見据えた動き

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2023年オフにペイサーズはハリバートンと5年MAX契約を結んだ。これは2028-29シーズンまでハリバートン体制で戦うことができるというチーム姿勢を明確にしたといえる。

一方でペイサーズはお世辞にも人気チームとは言い難く、スモールマーケットであるためFA獲得が非常に厳しいというチーム事情がある。 ポール・ジョージやビクター・オラディポといった過去のエースたちには度々「勝てるチームを作っていない」という理由でトレードを希望されており、ハリバートン体制でも同じ轍を踏むのは是が非でも避けたいとところだろう。

また、ハリバートンの次の契約更新時期は28歳頃であり、バスケットボール選手として最盛期の可能性が高い。ハリバートン体制で今後10年を見据えると第一次ハリバートン体制として最盛期を迎えているオールスター級の選手を獲得することで、ハリバートンの再契約を有利に進められる可能性が高まる。この点においてオールスター経験があり、弱点のPFで平均20点を獲れるシアカムの獲得は理に適っている。

ラプターズは満足いく対価を得られたのか?

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ラプターズは長年チームの中核を担っていたOGアヌノビーをニックスに放出したことで3年目のスコッティ・バーンズ体制に完全に移行しようとしていることは周知の事実だったこともあり、シアカム放出は遅かれ早かれ既定路線だった。

シアカムは2016年ドラフトのサプライズ選手の1人であり、MIPを獲得しし、初優勝にも大きく貢献したフランチャイズプレーヤーと呼べる選手だ。ラプターズGMのマサイ・ウジリと同じくアフリカにルーツを持っており、「発掘・育成のラプターズ」と呼ばれるきっかけになった選手でもあり、シアカムの放出はラプターズにとって心情的には簡単な決断ではなかった。

しかし、チームの将来像はバーンズ体制にあり、先に成立したOGアヌノビーの取引で地元出身のRJバレットと若手PGのイマニュエル・クイックリーを獲得していることからも、シアカム放出の対価としても有望な若手選手やドラフト指名権を獲得したいという思惑はあっただろう。

今回のトレードで加入したブルース・ブラウンはオーソリティプレーヤーとしてバーンズ中心のチームの穴を補助することができるし、来年はチームオプションであり、優勝を目指すチームからは引く手数多であるため別のトレードの駒として放出することもできる。 3Pシュートを打てるフォワードとして控えから活躍できるジョーダン・ヌウォラもローテーションプレーヤーとして期待でき、控え選手としての活躍が期待できる。 また、ペリカンズからペイサーズ経由で獲得したカイラ・ルイスJr.は怪我の影響もあってローテーション定着できなかったが、ドラフト13位指名の選手とポテンシャルは低くない。まだ22歳と若く、スピードのあるPGとして将来的にラプターズの中核を担う可能性はある。

また、2024年ドラフト1巡目指名権を2つと、2026年ドラフト1巡目指名権を1つを今回のトレードで得ており、ラプターズにとっては指名権が本命だといえる。2024年ドラフトは「不作」と言われているが、隠れた才能を発掘することに長けたラプターズにとってはダイヤの原石になる可能性がある。

シアカムは2023-24シーズン後に契約満了となり、MAX契約を要求しているという報道もあったように、相対的なトレード価値は下がる。ラプターズが望んでいたベネディクト・マスリンやジェイレス・ウォーカーは得られなかったが、来オフにFAで無償で出ていかれることを考えると、チーム構築に柔軟性を持たせられる選手と指名権獲得は及第点以上の成果だったといえるのではないだろうか。

ペリカンズがトレードに絡んだ理由

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今回のトレードにペリカンズが絡んだ理由は何だろうか?

表面だけ見ればペリカンズは若手を放出してキャッシュを得ただけだが、ペリカンズはサラリーキャップを超えているため、ラグジュアリータックス(贅沢税)が課される状態だった。 そこで構想外となっていたカイラ・ルイスJr.を放出することで18Mを節約でき、チームはラグジュアリータックスを回避することができる。

今回のシアカムのトレードにおいてはラプターズとペイサーズだけでも成立していたが、その場合はペイサーズから追加の選手をラプターズに放出する必要があった。噂ではジェイレン・スミスかオビ・トッピンが加わるのではないかと言われていた(ラプターズが要求していたベネディクト・マスリン、ジェイレス・ウォーカーはペイサーズ側が拒否)が、ペイサーズはスミスやトッピンの放出には消極的であり、第3チームを探していたものと考えられる。そのため、ペイサーズはサラリー合わせの選手を探しており、ペリカンズとペイサーズの利害が一致した形だ。

ラプターズは他チームとも交渉していたのは間違いないだろうが、契約状況に不安要素があるシアカムのトレードにおいてはペイサーズ以上の見返りが期待できなかったのではないかと思う。また、一部報道でいわれているようにシアカムの希望がペイサーズだった可能性もある。こうした事情のなかで、ラプターズとしてはオフシーズンに無償で移籍されるよりはこのタイミングで成立させた方が見返りが大きいという判断があったのではないかと思う。

そういった意味では、ペリカンズが入らなければ今回のトレードは破談となっていた可能性は低くないだろう。

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