ブレイク・グリフィン、アンドレ・ドラモンドのリーグを代表するツインタワーを擁しているデトロイト・ピストンズは2018-19プレーオフにイースタン8位で出場したものの、1勝も上げることなく敗退した。我慢の時を過ごしているピストンズを率いるドウェイン・ケーシーHCは、今オフに獲得したデリック・ローズの復活に期待している。
史上最年少MVPを獲得したデリック・ローズ
デリック・ローズは2008年ドラフト1位でシカゴ・ブルズに指名されたPG。抜群のスピードと爆発力で1年目からエースとして活躍し、平均16.8点、6.3アシストの成績を残してチームをプレーオフに導いた。リーグ3年目にはNBA史上7人目となるシーズン平均25点、4.0リバウンド、7.5アシスト以上を記録し、2011年時点で史上最年少でのMVPを獲得。PGとしてはNBA史上初のシーズン通算2,000得点、300リバウンド、600アシストを記録した5人目の選手でもある。
ローズの活躍は目覚ましく、オンボールでの突破力はリーグ随一で、NBAの契約形態に「デリック・ローズ・ルール」と呼ばれるものが設定されるほどのインパクトを残した。
ローズから光を奪った両膝の大怪我
NBAを担うスーパースターと目されていたローズだが、2011-12シーズンのプレーオフ1回戦で悪夢が襲う。試合中に左膝前十字靭帯断裂の大怪我を負い、翌2012-13シーズンを全休することとなる。復帰をかけた2013-14シーズンだったが、今度はシーズン序盤に右膝半月板断裂の大怪我を負い、翌2014-15シーズンには右膝半月板部分断裂をしてしまった。地元シカゴからニューヨーク・ニックスに移籍するも全盛期のキレはなく、チームのエースとしての活躍はできなかった。さらに、2016-17年シーズン終盤に左膝半月板断裂する重傷をまたしても負うことになる。
ローズの爆発力は身体能力の高さがベースにあり、度重なる膝の怪我によりドライブスピードは失われた。全盛期のローズは、ペースチェンジからの1歩目の速度が段違いに速い。ドライブからフィニッシュに持ち込む際には、膝のバネを最大限に使たアスレチック能力に頼るスタイルで爆発力を得ていた。
こうしたプレースタイルと、後にローズが語った学生時代からのストレッチ不足の影響で、ローズの膝には想像以上の負荷がかかっていたと思われる。これが4度の膝の大怪我につながり、史上最年少MVPを獲得したローズからスピードと爆発力を奪った。
ローズが経験した前十字靭帯断裂は、バスケットボール界では選手生命を脅かす怪我として有名だ。マジック・ジョンソンの再来といわれたアンファニー・ハーダウェイ、若くして殿堂入り確実と目されていたグラント・ヒルなど、世界最高峰のバスケットボール選手が集まるNBAの中でも特に才能に恵まれていた彼らから輝かしいキャリアを奪った怪我だ。前十字靭帯断裂を経て、怪我する前の状態まで回復した選手は数えるほどしかいない。それほど困難な怪我をローズは4度も経験している。
ニックス以後は、クリーブランド・キャバリアーズを経て、2018-19シーズンにミネソタ・ティンバーウルブズと契約した。キャバリアーズでのローズのプレーは全盛期とはまるで違うスタイルだった。ミドルシュートや3Pシュートを多用し、ドライブからのフィニッシュも全盛期の身体能力に頼ったものではなく、スピードを落として慎重にプレーしているように見えた。しかし、プレーの質自体は高いとは言い難く、スタッツやチームへの貢献度も限定的なものに終わった。
ウルブズでの感動的な復活劇
しかし、ローズは2018-19シーズンにウルブズで復活を遂げる。
10月31日のユタ・ジャズ戦では、シーズンMVPを獲得したブルブ時代も含めてキャリアハイとなる50点を奪取。さらに11月7日のロサンゼルス・レイカーズ戦ではキャリアハイとなる7本の3Pシュートを決めて見せた。このローズの復活劇は、多くのファン、そして多くのNBA選手を驚かせた。
怪我の影響で全盛期の爆発力はないが、あえてテンポを2つ遅らせたようなフィニッシュのタイミング、ドライブする際のペースチェンジの上手さと身体の使い方、中長距離のシュート力と老獪なプレーヤーにローズは変貌していた。
試合後に感情を爆発させて涙したローズの表情がすべてを語っていた。
若くしてMVPを獲得し、シカゴやニューヨークといった大都市に所属し、優勝候補の一角だったキャバリアーズで結果が残せなかったローズは、心ないファンやメディアの批判の的となった。熱狂的なローズのファンでさえ、「ローズは終わった」と多くの人が思っていた。しかし、ローズは自身の慣れ親しんだプレースタイルを変革し、血がにじむリハビリと努力の末にミネソタで復活した。今のローズはMVPを獲得し将来を嘱望された時の輝きはない。しかし、度重なる大怪我からカムバックを果たした「新たなデリック・ローズ」が帰ってきた。
ローズに期待を寄せるドウェイン・ケーシーHC
ピストンズのドウェイン・ケーシーHCは、2018-19シーズンからピストンズを率いている。ピストンズに招聘される前は昨年リーグ優勝を果たしたトロント・ラプターズで指揮を執っており、ラプターズの基盤を創り上げた人物としてチームビルディングの手腕と評価されている。日本でコーチをしていた時期もあり、日本とも縁のある人物だ。
ピストンズにはブレイク・グリフィン、アンドレ・ドラモンドの2人の元オールスタープレーヤーが在籍している。グリフィンはアグレッシブなダンクが印象的だが、怪我の影響もあって近年はアウトサイドのシュート力を身につけ、周囲を驚かせた。実際、グリフィンのシュート効率はクリッパーズ時代より上がっている。ドラモンドは過去4年間で3度のリバウンド王に輝く現代の主要センターの1人だ。この2人が布陣するインサイドはNBAでも有数のツインタワーを形成している。バックコートにはスコアリング能力に長けたレジー・ジャクソンがおり、「BIG3」と呼ばれているが他のBIG3と比べると見劣りする。チームとしての噛み合わせは決して良いとはいえず、プレーオフ当落線上だ。
そのピストンズはチームのカンフル剤としてローズに白羽の矢を立てた。同ポジションにレジー・ジャクソンがいるため、セカンドユニットでの起用になると思われるが、ケーシーHCはローズに大きな期待を寄せている。シーズンを通して健康で、ウルブズで見せたプレーを継続できれば、ボールを独占する癖があるジャクソンに代わってスタメン起用もありえる。
ピストンズ公式サイトで、ケーシーHCは「彼は昨年、まだ終わっていないことを証明した。彼のプロフェッショナルな精神力、常にハードにプレーするスタイルがチームの色を決める。」というコメントを寄せた。ケーシーHCはローズに、リーグ25位のオフェンスの向上と、癖のあるチームをまとめる精神的支柱としての役割を期待していると思われる。
個人としても、チームとしても停滞感が漂うピストンズのチームカラーを変える人材としてキャリアを終わらせかねない怪我から復活したローズ以上の適任者はそういない。エリート選手としてキャリア初期を過ごしたローズが、伝統的に泥臭いチームカラーを是とするピストンズ復活を任せられるというのは、運命的なものを感じざるえない。第二のバスケ人生をスタートさせたデリック・ローズが、ピストンズでどんなプレーを披露するのか。ゲームはまだ終わっていない。