2018-19シーズンに53勝29敗という好成績を残し、プレーオフではカンッファレンス・ファイナルまで勝ち進んだポートランド・トレイルブレイザーズ。一転して、2019-20シーズンは29勝37敗でシーズン中断を迎える苦しいシーズンを送っている。
ブレイザーズ最大の課題はインサイド
ブレイザーズといえば、デイミアン・リラードとCJ・マッカラムの2枚看板だ。特にリラードはチームの起点になる選手であり、リラードの離脱(10試合ほど)や、インサイドの潤滑油的な役割を果たすユスフ・ヌルキッチの離脱など、主力の怪我が続発したことが苦戦の大きな要因だ。
特にヌルキッチは、2018-19シーズンに平均15.6点、10.4リバウンド、1.43ブロックを残しており、インサイドにおけるチームの要だ。3Pシュートこそないが、サイズと機動力を兼ね備えており、ペリメーターでのスクリーンやディフェンスに欠かすことができない存在だ。これは平均3.2アシストと、一昨年からアシスト数を倍増させていることにも示されている。
また、シーズン中断直前まで、昨年プレーオフで頭角を現したザック・コリンズも離脱していたことも少なくない影響を与えているだろう。コリンズは3Pシュートも打てるビッグマンで、2018-19シーズンは平均6.6点、4.2リバウンドを記録している。出場試合数は少ないが、今季は3P成功率で37.0%と高い数字を残しており、オンコート時の+/–は6.3とチームでもっとも良い数字を残している。
ブレイザーズはヌルキッチの離脱を受けてシーズン前にマイアミ・ヒートからハッサン・ホワイトサイドを獲得している。今季のホワイトサイドは平均31.3分の出場で16.3点、14.2リバウンド、3.1ブロックという数字を残しており、文字通りインサイドを制圧している。このスタッツが示す通り、ホワイトサイドはペイントエリアでは攻守で無類の強さを誇るのだが、それがチームの強さに繋がっているかといえば疑問だ。
現在のNBAは非常にアップテンポになっており、よりアウトサイドに対するスペースを潰すディフェンスが重要とされている。そのためにはペリメーターを主戦場に機動力のある選手のヘルプディフェンスが重要で、柔軟なプレーを苦手とするホワイトサイドは現代NBAのスタイルに合っているプレーヤーとは言い難い。
ブレイザーズの勝ちパターンは、リラードとマッカラムのワンツーパンチなのは周知の事実だが、それを生み出すためにはリラードとマッカラムが常に動き回ることができるスペーシングが必要だ。また、リラードとマッカラムにスムーズにボールを回すことができる柔軟なスクリーンプレーやパス能力がインサイドの選手に求められる。ホワイトサイドのプレースタイルは、ブレイザーズの強みであるはずのスペーシングとボール回しを阻害している。
カーメロ・アンソニーのブレイザーズ加入の成否
シーズン中盤にブレイザーズは、元オールスターのカーメロ・アンソニーと契約した。
カーメロは生粋のスコアラーだが、ここ数年は「勝てないスーパースター」「セルフィッシュなハーフコートプレーヤー」という評価を覆す活躍ができていなかった。2018-19シーズンにロケッツから放出されて以来1年に渡ってNBAでプレーできていなかったため、引退説も囁かれていた。

カーメロはチームオフェンスの起点となるプレーヤーではなく、圧倒的な1on1スキルとスコアリング能力が強みだ。ハーフコートオフェンスを得意とし、ボールを保持して1on1を仕掛けるプレースタイルを得意としていた。このスタイルはホワイトサイド同様にブレイザーズの強みであるスペーシングとボールの動きを阻害する。また、ディフェンス面で手を抜くという評価を受けており、ブレイザーズがカーメロを獲得した際に、ブレイザーズのシステムにフィットするか疑問視された。
結果論になるが、これらの懸念は杞憂に終わった。時折エルボー付近でボールを止めて1on1を仕掛けるプレーを見せるが、リラードとマッカラムとプレーしている時間帯は以前と比べてボール離れがよくなっている。これはカーメロが意識的にプレースタイルを変えていると思われる。
また、ディフェンに関しても、シーズン中断直前は機動力を活かしてヘルプディフェンスに積極的にいっている。ディフェンスに関しては”技術よりも意識”としばしば言われるが、以前のカーメロとは一線を画すこれは数字に残りにくい献身的なプレーを見せている。事実、100ポゼッションでの平均9.3リバウンド、2.3アシスト、12.2スティールという数字は、2017-18シーズンに在籍したサンダー時代よりも良い数字だ。
カーメロは1年契約ではあるが、引退も囁かれていた中でチャンスをくれたブレイザーズに恩義を感じていると語っており、「キャリアをブレイザーズで終えたい」という趣旨の発言もしている。発言の真偽はわからないが、今季のカーメロのプレーを見ているとあながちリップサービスとも思えない。生粋のスコアラーがスポットライトを譲ることは、想像以上に難しいことだ。
また、スタッツ上でもカーメロの貢献は重要というデータが出ている。勝った試合と負けた試合での、100ポゼッションあたりのカーメロの成績を比較してみよう。
Wins | Losees | |
PTS | 27.2 | 19.0 |
FG% | 51.2% | 35.8% |
3P% | 50.0% | 26.4% |
REB | 10.5 | 8.3 |
AST | 3.1 | 1.7 |
TOV | 2.3 | 2.8 |
STL | 1.4 | 1.0 |
BLK | 0.9 | 0.5 |
FGA、3PAともに勝敗で差がないため、2019−20シーズンにおいてはカーメロが効率的なプレーができるかが勝敗に直結していたといえる。特徴的なのはアシストとブロックが勝利試合では倍増しており、スティール数も約1.5倍に増加させているということだ。この数字からも、チームシステムに重きを置いていることが読み取れるだろう。
2019-20ポストシーズンで、カーメロに求められる役割
カーメロの1on1を上手くオフェンスパターンの1つとして昇華できれば、ブレイザーズにとってより強力な武器となる。シーズン中断前の試合では、カーメロの1on1時にリラードとマッカラムの足が止まる場面が多く、結果的にタフショットを打たされ、オフェンスリバウンドにいけないとことも少なくなかった。この辺の調整がポイントとなりそうだ。
カーメロはポストシーズンにSFでプレーすることを念頭に置いて、シーズン中断中にシェイプアップを行った。
5ポンド(2.2kg)程度しかシェイプアップしていないとのことだが、練習風景を見る限りかなり動きが軽くなっていることが伺える。シーズン中断前にも機動力のあるディフェンスを見せていたが、「これほど体重を落としたのは、キャリア初期以来」とカーメロが語っている通り、ナチュラルポジションであるSFで起用されることは確定的だ。
リラード、マッカラムに次ぐオプションになることができるカーメロは、フリーにするには危険すぎるスコアラーであり、レギュラーシーズンのようにカーメロが起点となってのアシストを積み重ねることができれば、ブレイザーズのオフェンスリズムが好転する。SFに戻ることで必然的にポストでのプレーは減るだろうが、ヌルキッチとコリンズが復帰することを考えると、チームにとっては良い変化になるだろう。
また、ディフェンスにおいてもレブロン・ジェームズやカワイ・レナード、ザイオン・ウィリアムソンらと対峙することになるため、如何に数字に残らないプレーを継続できるかがポイントになるだろう。
ブレイザーズは現在ウエスタン9位で、8位のグリズリーズとは3.5ゲーム差となっており、プレーオフ進出は微妙なところだ。ペリカンズ、キングス、スパーズ、サンズとのゲーム差も4ゲーム以内であるため、ブレイザーズにとってオーランドでの試合は非常に厳しいものになる。リラード、マッカラム、ヌルキッチが今季初めて同じコートに立つことになる再開後のシーズンは、カーメロとのケミストリー構築がブレイザーズが勝ち上がれるか否かの試金石にになりそうだ。