【コラム】ベン・シモンズのPF転向は、シクサーズのラストピースか?

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オーランドで再開される2019-20シーズンに向けて各チームが調整に入っている。シーズン前に優勝候補の一角と目されていたフィラデルフィア・セブンティシクサーズは、ベン・シモンズをPFで起用する構想があるとESPNが報じた。

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シクサーズの弱点は3Pシュートか?

2019-20シーズン中断前のシクサーズは39勝26敗でイースタン6位とシーズン前の期待を裏切るものだった。ディフェンスレーティングこそ6位とリーグ上位だが、オフェンスレーティングでリーグ17位と期待された完成度とは程遠い状態だ。

要因の1つはシモンズの最大の課題である3Pシュートといわれている。PGで起用されているシモンズだが、2019-20シーズンは65試合で6本しか打っていない。シモンズの3Pシュートを補完していたTJ・マッコネルとJJ・レディックがチームを去ったことで、この弱点がチームとして際立っているように思える。穴埋めを期待されたジョシュ・リチャードソンは3P成功率32.7%、高額契約を結んだアル・ホーフォードは33.7%と、及第点ではあるものの弱点を補完するまでには至っていない。

しかし、実はチーム全体の3P成功率は36.2%と取り立てて悪い数字ではない。1試合平均での試投数・成功数は微増しており、客観的にみると昨年と比べて3Pシュートがチーム全体として悪化しているとはいえない。

          2018−19シーズン  2019−20シーズン 
試合数8265
3PM(成功数)889742
3PA(試投数)2,4742,052
3PM(1試合平均)10.811.4
3PA(1試合平均)30.231.6
3P%(成功率)35.9%36.2%
EFG%53.2%53.0%

シクサーズのオフェンス問題の本質は、オフェンスが単発になっていることだ。シモンズは圧倒的な突破力とコートビジョンの広さを持っているが、3Pシュートがないためディフェンスを収縮させてスペースを生み出すことができない。インサイドで起点となることを期待されたホーフォードは、ジョエル・エンビードとシモンズのインサイドを使う2人のエースと上手くスペースをシェアすることができなかった。このことがホーフォードをベンチ起用に切り替えた一因だろう。

また、ホームでは29勝2敗と圧倒的な強さを見せるが、敵地では10勝24敗と内弁慶ぶりを発揮している。ロードではほとんどの数字が悪化するのだが、目立つのは3PA(試投数)が3.5本ほどロードの方が増加するのに対し、成功率は0.4本しか増加していない。つまり、苦し紛れのタフショットを打たされているということだ。また、AST%も減少していることから相手ディフェンスにスペースを潰されていることが伺える。

コンバートを実現したシェイク・ミルトンの成長

シモンズをPFで起用するためには、バックコートのロスターをどうするか考える必要がある。今季のシクサーズはトバイアス・ハリスやアル・ホーフォードと契約するために、主力級のレディックやマッコネルを手放している。現在のロスターは下記の通りだ。

引用:https://www.basketball-reference.com/

シモンズを除けばPGとしては、ある程度のゲームメイクを期待できるハウル・ネトしかおらず、先発起用には心許ない。ジョシュ・リチャードソン、フルカン・コルクマズ、マティス・サイブル、シェイク・ミルトンらが在籍する比較的層が厚いSGから先発PGに起用するというプランが現実的だ。リチャードソンは先発SGとして起用されることが確定的であるため、候補としてはコルクマズ、サイブル、ミルトンの3人となる。

この中で注目されているのはミルトンだ。ミルトンは2年目のSGで、Gリーグではシュート力とパスセンスが評価されロスターにピックされた。今季のミルトンは19.1分の出場で平均9.5点、2.2アシスト、2.1リバウンドを記録している。特に3P成功率は45.3%と昨年から大きく向上させ、チームトップの成功率となっている。先発出場に限定すれば28.2分の出場で平均14.1点、3.6アシストと及第点の数字を残している。FG成功率53.9%、3P成功率50.0%というシュート確率は特筆すべき数字だ。

ミルトンをPGで起用した場合、SGはリチャードソン、コルクマズ、サイブルの3人で回すことになるが、タイプの異なる3人を相手によって使い分けるローテーションは、これまでにない相乗効果を生み出す可能性がある。特にNBAでも屈指のディフェンダーとなっているルーキーのサイブルはプレーオフでエースキラーとしての活躍が見込める。

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シモンズのPF起用は、シクサーズのラストピースか

シモンズをPFで起用するというプランは、想像の上では今のシクサーズの課題の多くを解決する。ミルトン、コルクマズ、ハリスと併用することでインサイドのスペースを広げることができ、シモンズの突破力やポストプレーからのキックアウトでのロングシュートというオフェンスパターンが期待できる。

また、シモンズのコートビジョンがあれば、ポイントフォワードとしてインサイドからゲームコントロールすることができ、ガード並みの走力でリバウンドからのトランジッションでバリエーションにも厚みを持たせることができる。ディフェンス面でも優秀であるため、状況に応じてバックコートの選手にマッチアップすることでサイズのアドバンテージを得ることができる。学生時代にはPFでプレーしていたため、アジャストすることも難しいことではないだろう。

ホーフォードの獲得は現状では失敗だったと言わざるえないが、シモンズがPFで機能すれば、ホーフォードを獲得した際に目論んでいたプレーオプションをより高いレベルで実現することができる。

シモンズをPFで起用するというプランは実現する可能性が高い。これを上手く活かすためには、エンビードとシモンズのスペーシングの問題、ミルトンとサイブルのポストシーズンでの安定という点がポイントとなる。中断前のシクサーズは優勝候補とは言い難いシーズンを過ごしていたが、シモンズのPF起用が優勝へのラストピースになる可能性は十分にある。その鍵を握っているのは、ミルトンとサイブルという若手の2人だ。

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