ザイオン・ウィリアムソンを獲得し、オールスター選手に成長したブランドン・イングラムとともにペリカンズを担うと期待されていたロンゾ・ボールは、放出の噂に悩まされている。
来オフに契約満了を迎える23歳のロンゾのトレードは、ペリカンズにとって現実的なオプションとなっている。
スタン・バンガンディHCのチーム戦術
ペリカンズはオフにHCをスタン・バンガンディを迎えた。バンガンディHCはマイアミ・ヒートやオーランド・マジックで実績を残しており、契約期間が4年といわれていることからもザイオン・ウィリアムソンへの指導が期待されている。
バンガンディHCの特徴は、ビッグマンを起点としてハンドオフ(ボールの手渡しパス)を多用する戦術だ。バンガンディHCの戦術はビッグマンが起点となり、ボールシェアを重要視する。ピストンズ時代にはアンドレ・ドラモンド、マジック時代にはドワイト・ハワードを起点にしたチーム戦術を浸透させた。
2010年代の潮流であった高速のトランジション・オフェンスと3Pシュートを多用する戦術とは一線を画すため「時代遅れの戦術」と揶揄されることもあったが、このバンガンディHCの戦術を応用したマイアミ・ヒートが2019-20シーズンにファイナル進出を果たしたことで再評価されている。
このバンガンディHCの戦術は、20年に1人レベルの逸材といわれるザイオンを中心とするチーム作りにはマッチしそうだ。バンガンディHCが圧倒的なフィジカルとスピードを持つPFのザイオンを起点として、ハーフコートオフェンス主体に切り替えていくのは間違いない。
この影響は数字にも表れており、2020-21シーズン序盤終了時点でのペリカンズのペースはリーグ20位となっており、前年がリーグ4位だったことを考えると大幅に試合速度が下がっている。
数字でみるロンゾ・ボールの影響力

では、バンガンディHCの戦術が現時点でロンゾにどういう影響を与えているか、USG%(該当選手を起用したプレーの割合)とPER(該当選手の影響度)を見てみよう。
2019-20 | 2020-21 | |
ロンゾ・ボール | 18.5% | 20.4% |
ザイオン・ウィリアムソン | 30.5% | 27.7% |
ブランドン・イングラム | 28.1% | 27.6% |
2019-20 | 2020-21 | |
ロンゾ・ボール | 13.1 | 12.5 |
ザイオン・ウィリアムソン | 24.1 | 24.5 |
ブランドン・イングラム | 18.8 | 19.1 |
USG%についてはザイオンとイングラムが下げているのに対し、ロンゾのUSG%は上がっている。これはバンガンディHCのボールシェアを重視するシステムによる影響が大きい。2019-20シーズンのペリカンズのアシストの約半分がロンゾとジュルー・ホリデーだったことを考えると、ホリデーが移籍したにもかかわらずロンゾのUSG%が微増しているというのは、相対的にロンゾのプレーメイクにおける影響は減っていると考えられる。それを示すかのように選手の影響度を表すPERも減少している。
2019-20 | 2020-21 (2/5時点) | |
PTS | 17.0 | 20.5 |
FG% | .403 | .408 |
2P% | .442 | .512 |
3P% | .375 | .339 |
TRB | 8.8 | 6.2 |
ORB | 1.6 | 0.7 |
DRB | 7.1 | 5.5 |
AST | 10.0 | 7.3 |
STL | 2.0 | 2.3 |
100ポゼッション換算でのスタッツでは、得点が3.5増えているのに対してアシストは2.7も減っている。USG%が伸びているにも関わらずアシストが大きく減少しているということは、ロンゾが攻撃の起点となる回数が減少しているということだ。
また、ディフェンスにも課題がある。
マッチアップした相手のシュート成功率をみると、15フィート以上のシュートに対しては効果的に守れているものの、10フィート未満のディフェンスについては平均レベルだった昨年よりも大きく数字を落としている。こそれを示すように2021年2月5日時点でのペリカンズのディフェンスはリーグ25位となっており、ペリメーターでのディフェンスが課題となっているのは間違いないだろう。
2019-20 | 2020-21 | |
6フィート未満 | 0.3 | 7.7 |
10フィート未満 | 1.3 | 6.9 |
15フィート以上 | -2.4 | -4.9 |
ロンゾ・ボール獲得が噂される7チームと所見
fortyeightminutes.comによると、ロンゾの獲得に興味を持っていると噂されているのは下記7チームだ。それぞれの所見を考えてみよう。
ニューヨーク・ニックス
ニックスはかねてからPGの獲得を熱望しているが、トム・シボドー体制に代わったことでディフェンシブなチームになっている。2月5日時点でディフェンス・レーティングはリーグ6位であり、昨年から劇的にディフェンスが改善している。ジュリアス・ランドルやミッチェル・ロビンソンが起点となるハーフコートオフェンスを展開することも少なくなく、事実ペースはリーグ30位でもっとも遅い。こういった面でニックスはペリカンズに似たチームだといえる。
RJ・バレットのディフェンスは平均以下の数字担っており、ペリカンズ同様にロンゾを獲得した場合もペリメーターでのディフェンス問題がより表面化する可能性がある。
シボドーの戦術にロンゾが合致するかはかなり怪しく、ニックスが久々に希望が見えるチーム状況になっていることを考えると当面はシボドーの戦術に合致する選手を集めていくだろう。
シカゴ・ブルズ
エースのザック・ラビーン放出の噂が絶えないブルズは、ペースはリーグ3位が示すようにアップテンポなオフェンスが可能だ。また、ビリー・ドノバンがHCに就任したことも、ロンゾが次のステージに上がる手助けになるかもしれない。
懸念点としてはPGのコビー・ホワイトとの住み分けだ。
ホワイトはボールハンドリングに優れており、役割がロンゾと近い部分がある。片方を6thマンとして起用するのであれば良いが、才能の片鱗を見せる若手PG2人のタイムマネジメントは大きな課題になる。また、ラビーンを放出した場合はフィニッシュ力に不安が残る。ディフェンス・レーティングもリーグ24位となっており、ディフェンス面においてもロンゾ獲得はリスクのある選択になるだろう。
ただ、ブルズは改めて再建をやり直す公算が高く、次のチーム作りの核にロンゾを据えるのであれば悪い選択ではない。そうであれば来オフに契約が切れるという状況での獲得も理解できる。
オーランド・マジック
期待を寄せていた元ドラフト1位のマーケル・フルツの離脱によって、マジックがロンゾ獲得に興味を持っていても不思議ではなかった。しかし、2020ドラフト15位で指名した元No.1高校生プレーヤーのコール・アンソニーの台頭によってPG需要は後退している。アンソニーは得点力もさることながらゲームメイクにも才能の鱗片を出しており、フルツとともにマジックの中核を担っていく可能性が高い。
エヴァン・フォーニエ、アーロン・ゴードン、ニコラ・ヴュチェビッチらとのラインナップは魅力的だが、フルツ復帰とアンソニー台頭を念頭におけば若手の層が厚いPGにあえてロンゾを加える意義は薄い。
ダラス・マーベリックス
マーベリックスは、基本的にハーフコートオフェンスを軸に据えたチームだ。
ルカ・ドンチッチとクリスタプス・ポルジンギスがチームの軸であるのは間違いなく、チーム戦術の基礎はこの2人のツーメンゲームにある。
まだシーズン序盤ではあるがマーベリックスは前評判に反してウエスト14位と低迷しており、ドンチッチのストレスもかなり大きくなっている。ドンチッチは2021-22シーズンで契約が切れるが、チームとしてはドンチッチと無事に再契約できるレベルには立て直す必要がある。
マーベリックスが浮上のために何かしらの補強を行う可能性は低くないが、トランジションに特に秀でたわけではないドンチッチのペースを崩していう可能性があるロンゾに興味を持っているかは微妙なところだ。
トロント・ラプターズ
優勝した2018-19シーズンの主力メンバーの多くがチームを去り、ラプターズは世代交代に差し掛かっている。エースのパスカル・シアカムを中心にOG・アヌノビー、フレッド・ヴァンブリート、カイル・ラウリーらがチームを支えてプレーオフ戦線にまで立て直してきた。
Gリーグから這い上がったヴァンブリートの躍進はあるものの、35歳になるラウリーの後任PGに触手を伸ばしてもおかしくないだろう。その意味で、プレーメイクができる23歳のロンゾは悪くない選択肢だ。
しかし、ラプターズの強みであるチームディフェンスのシステムにロンゾがマッチするかは怪しい。ニック・ナースHCはペリメーターのディフェンスに厳しく、ディフェンスに弱点がある選手の起用には消極的な部分がある。そのため、ディフェンスで穴になる可能性があるロンゾの獲得は微妙なところだろう。
サクラメント・キングス
キングスはリーグ14位のペースで、ディアロン・フォックスを中心に速いテンポのオフェンスを行っている。ロンゾがゲームメイクに徹するのであればフォックス、バディ・ヒールド、マービン・バグリーⅢとのトランジションは魅力的なラインナップになる。
また、バックコートにはフォックス、ヒールド、コーリー・ジョセフと豊富に人員が揃っており、ルーキーのタイリース・ハリバートンはリーグ30位のアシスト数とルーキー1stチームを狙える活躍をしている。マジック同様、ハリバートンの台頭によってシーズン終了後に再契約の必要があるロンゾを獲得する意味は薄くなったといえる。
ロサンゼルス・クリッパーズ
クリッパーズはリーグ27位のペースながらオフェンスレーティングはリーグ2位を誇っている。カワイ・レナード、ポール・ジョージの2大エースに加えて守備のスペシャリストであるパトリック・ベバリーが在籍していることもあり、ディフェンス・レーティングはリーグ13位と悪くない。
バックアップPGを務めているレジー・ジャクソンは及第点の活躍をしているものの、優勝を伺う上でさらなる補強を模索することは想像に難くない。クリッパーズが優勝へのピースとしてロンゾ獲得に乗り出してもおかしくはないだろう。
ロンゾ獲得に際して問題となるのは、ペリカンズが納得するアセットをクリッパーズが提示できるかという点だ。ベバリーであればペリカンズの需要にも合い、トレードも釣り合うが、クリッパーズにとってはリスクも相応にある取引になるだろう。
まとめ
ペリカンズはスタン・バンガンディHCのもとでザイオンとイングラム中心のチームに移行しており、少なくともザイオンの再契約までには勝てるチームを作っておく必要がある。ペリカンズ首脳陣にとって、アンソニー・デイビス以上にザイオンに出て行かれることだけは避けたいはずだ。
ディフェンスに課題がありながらもロンゾのUSG%と得点は共に増加しており、PERを見てもチームの主力としての役割は果たしていると考えられる。しかし、ザイオンとイングラムの脇を固める3rdオプションとしての役割がメインであり、ロンゾが得意とするトランジションやゲームメイクでの役割は小さくなっているといえる。
ペリカンズはロンゾ放出に前向きといわれているが、放出に際しては相応の見返りを要求していると報道されている。来オフに制限付きFAとなるロンゾとの再契約が念頭にあるともいえ、今季中にロンゾを放出するかは微妙なところだ。ロンゾ獲得にはペリカンズを納得させることができるアセットを提示できるかにかかっており、プレーオフ当落線上のチームや優勝を狙うチームが触手を伸ばす可能性はある。
バンガンディHCの戦術を強化していくのであれば、ロンゾ放出はオプションとしてはありえる。しかし、ザイオンとも相性の良いトランジションにシステムを切り替える可能性があるのであればロンゾは最適な人選になる。ロンゾはまだ23歳と若く、ザイオン、イングラムとともにペリカンズを強豪に育てていけるかもしれない。
また、バンガンディHCの戦術においても優秀な3rdオプションとなっているロンゾを手放すということは相応にリスクもある。
すべては数年に来るザイオンとの再契約のためにある。
ロンゾが高額オファーや自身がより輝けるシステムを望むのであれば、近い将来にペリカンズから放出されることになるだろう。