オフシーズンの動き
加入 | ・ロビン・ロペス(CHI) ・ウェスリー・マシューズ(IND) ・カイル・コーバー(UTA) ・フランク・メイソン(SAC) ・ジェイレン・アダムス(ATL) ・キャメロン・レイノルズ(MIN) ・ドラガン・ベンダー(PHX) ・ルーク・メイ(Draft外) ・レイジョン・タッカー(Draft外) ・タナシス・アデトクンボ(Draft外) | 退団 | ・マルコム・ブログドン ・パウ・ガソル ・二コラ・ミロティッチ ・トニー・スネル ・ティム・フレイジャー ・ボンジー・コルソン |
予想ロスター
PG | SG | SF | PF | C | |
1st | エリック・ ブレッドソー | ウェスリー・ マシューズ | クリス・ ミドルトン | ヤニス・ アデトクンボ | ブルック・ ロペス |
2nd | ジョージ・ ヒル | スターリング・ ブラウン | カイル・ コーバー | アーサン・ イリャソワ | ロビン・ ロペス |
3rd | ジェイレン・ アダムス | ドンテ・ ディビンチェンゾ | タナシス・ アデトクンボ | DJ・ ウィルソン | |
4th | パット・ カナトン | ||||
5th |
2019−20シーズンの展望
ミルウォーキー・バックスには2018-19シーズンMVPのヤニス・アデトクンボが在籍している。バックスにとってヤニスは、カリーム・アブドゥル・ジャバー、オスカー・ロバートソン以来のスーパースターだ。ギリシャ出身の細身の若者が、これほどの怪物に変貌すると予想できた関係者は少なかっただろう。
ヤニスとクリス・ミドルトンという2人のオールスター選手に率いられたバックスは、昨年60勝22敗とイースタン首位でレギュラーシーズンを終えた。オフェンシブ4位、ディフェンシブ1位と、バックスが優勝候補の一角だったことは疑いようのない事実であり、カンファレンス・ファイナルでトロント・ラプターズに敗れなければ優勝していた可能性もあっただろう。
昨年のバックスの躍進には3つの要因があったと考えられる。
1つ目は平均27.7点、12.5リバウンド、5.9アシストという数字を残し、MVPを獲得したヤニスが名実ともにリーグ最高峰選手に成長したことだ。ヤニスはパワー、スピード、テクニックの3つを併せ持ち、全盛期のシャキール・オニールさえも連想させる選手になった。ディフェンダーにとって彼を完全にストップすることは簡単なことではない。3Pシュートを得意とする2ndオプションのミドルトンとの相性も良く、ペイントの内外にプレースタイルの異なるオールスター選手が在籍していることがディフェンスを難しくしているといえるだろう。
2つ目は昨年、最優秀HCに輝いたマイク・ブーデンホルザーHCの存在だ。前任のジェイソン・キッドは選手として多くのチームを再生してきた。弱小チームのニュージャージー・ネッツ(現ブルックリン・ネッツ)に移籍した際に、2年連続でファイナルに導き、マーベリックスでは優勝に大きく貢献した。バスケットIQや戦術理解においてキッドはブーデンホルザーよりも上だが、キッドは自身が歴代最高レベルのPGだったことが災いし、選手たちを厳しく叱責することが多かったといわれている。
「コーチ・キッドには感謝している。だけど、コーチ・キッドの叱責でチームが委縮していた部分はある。ブーデンホルザーHCは何が良くなかったかを論理的に、忍耐強く説明してくれる。」とヤニスはインタビューで答えていることが印象的だ。潜在能力が高い選手たちが開花しつつあったチームにとって、ブーデンホルザーHCのコーチング・スタイルは選手とのケミストリーという面でも大きな財産になったと考えられる。
3つ目は、バックアップメンバーのステップアップだ。バスケットIQが非常に高く、難しいシステムも簡単に理解し攻守で安定感を発揮するマルコム・ブログドンの存在、オールドスクールなセンターとして評価されていたブロック・ロペスが、ストレッチ5として3Pシュートを高確率で打てるようになったことなどが代表例だ。事実、2017-18シーズンでは3Pシュートは試投数・成功数ともにリーグ下位だったが、昨年はリーグ2位に浮上している。これはブーデンホルザーHCのシステムを各ポジションの選手が理解し、ステップアップを果たした成果だろう。
24歳のヤニスを中心に優勝を狙うバックスにとって、2019-20シーズンは最大のチャンスだ。カワイ・レナードはロサンゼルス・クリッパーズへ移籍し、ブルックリン・ネッツが獲得したケビン・デュラントはシーズン全休の可能性が高い。レブロン・ジェームズも2018年にレイカーズに移籍しており、ヤニスの脅威となりえる選手が極端に少ないのが今年のイースタン・カンファレンスだ。現時点でイースタンで対抗馬になりえるのはライバルとなりえるのは、強力な先発陣を揃えたシクサーズ、強力なバックコート陣と戦術を持っているセルティクスぐらいだろう。
バックスのフロントコートは「強力」の一言だ。PFは全体的エースのヤニスを筆頭に、アーサン・イリャソワ、DJ・ウィルソンと層が厚い。イリャソワは地味ながら相手の嫌がるプレーが上手く、チームの泥臭い部分を補完する。シュート力のある二コラ・ミロティッチが抜けたことでセカンドユニットのスペーシングに問題が出る可能性はあるが、ヤニスが長期離脱しない限りは安泰だろう。
また、チームの2番手であるクリス・ミドルトン擁するSFも層が厚い。ヤニスと相性が良く、3Pシュートを中心にアウトサイドでのプレーでチームを牽引するミドルトンと再契約できたことは大きい。ヤニスは穴が少ない選手ではあるが、唯一の弱点といえるのはアウトサイドでのプレーメイキングだ。そこを高いレベルで補完することができるミドルトンをキープできたことで、昨年同様にディフェンスの的を分散させることができる。これは、ヤニスとミドルトンの双方を高めることに繋がる。
さらに控えに歴代屈指の3Pシューターであるカイル・コーバーを加えた。コーバーは今年38歳と大ベテランだが、昨年の3P成功率は39.7%と衰えはみられない。強豪で3Pのスペシャリストとして活躍した経験は、優勝を目指すバックスにとっても大きな存在になるだろう。ヤニスの実兄であるタナシスは未知数ではあるが、FIBAワールドカップでも鼻っ柱の強さを見せたこともあり、プレー面でも精神面でも成長が求められる。上手くいけば、コーバーと住み分けができることが理想像だ。
Cにはロビン・ロペスを獲得した。兄のブルック・ロペスは昨年3Pシュートを会得しストレッチ5となったことで周囲を驚かせた。ブルックは元々インサイドでの得点には定評があるため、内外で効果的に得点を積み上げることができる。弟のロビンは兄とは対照的で、ブロックやリバウンドを中心に泥臭いプレーを持ち味にする。相手に応じてタイプの異なるロペス兄弟を使い分けることができるのは、長いシーズンを戦い抜くには大きなアドバンテージになるだろう。
PGは2年前の新人王で攻守で高いパフォーマンスを発揮するマルコム・ブログドンがチームを離れたことで、バックコートは少々安定感に欠ける。エリック・ブレッドソーが健在で、攻守で安定感のあるジョージ・ヒルが控えにいるため大きな戦力ダウンにはならないが、難解なディフェンス・システムでも簡単に理解して実行できるブログドンを失ったことは、プレーオフや優勝争いを見据えた場合はボディブローのように効いてくるだろう。
ブレッドソーは得点力は元々高い評価を受けていたが、近年ではディフェンス面の向上もみられる。攻守でアグレッシブなプレーをする貴重な選手であるが、活躍にムラがあるのが課題だ。また、控えのヒルはスパーズ、ペイサーズ、キャバリアーズなどで強豪チームの一角として活躍した実績がある。PGについてはブレッドソーとヒルの2枚看板が健在であれば、ディフェンス面でも安定感をもたらすことができるだろう。
SGにはウェスリー・マシューズを獲得した。マシューズは3&Dとして、バックスのシステムにフィットするだろう。トニー・スネルの移籍した穴はマシューズで埋めることができるだろう。SFで起用されるであろうコーバーが控えSGとして起用される場面もあるだろうが、基本はスターリング・ブラウン、ドンテ・ディビンチェンゾ、パット・カナトンら若手の起用が中心となりそうだ。
バックスは、リーグのトッププレーヤーの1人に躍り出たヤニス・アデトクンボを中心に成功した昨年から大きくチーム方針を変えない補強を実施した。ブログドンの離脱は、数字面以外でもチームにとって大きな痛手となりえるが、「3Pシュートの強化」「バックコートディフェンスの強化」の2点に絞った補強は的確だったといえるだろう。
また、ミドルトンを筆頭に今オフに多くの延長契約を結んだ。NBAではご法度とされるヤニスとの来オフの延長契約にオーナーが言及するなど、現在のコアを維持してヤニス全盛期に優勝したいという意思表示を明確に示した形だ。そのためには2019-20シーズンはファイナル進出以上を達成してヤニスとの再契約を無事に迎えたいところだろう。
逆にいうと昨年以下の成績でシーズンを終えたり、チームが空中分解した場合はヤニスとの再契約にも黄色信号が灯ることになる。ヤニスとの再契約がご破算になった場合、今オフに結んだ延長契約はチーム再建の大きな足枷となる。
バックスはレイ・アレン、グレン・ロビンソン、サム・キャセールの「ビッグ3」擁した2000年代初頭以来の期待のシーズンを迎える。明確な強豪がいない東地区でバックスが首位を独走する可能性は低くないだろう。