4度のリバウンド王の実績を持つ現役屈指のビッグマンの1人であるアンドレ・ドラモンドを、「トレード成立までプレーさせないことで合意した」と報じられた。これは試合に出場することで怪我するリスクを避けるためで、キャバリアーズは本格的にドラモンドのトレード交渉に入ったと考えられる。
現役最強クラスのリバウンドマシーン

ドラモンドは攻守でペイントエリアを制圧できる、現代NBAでも随一のビッグマンの1人だ。
現代のNBAではアウトサイドに移動してハイポストでのプレーを得意とするビッグマンも多いが、ドラモンドは古典的なプレースタイルでインサイドを主戦場に強靭な肉体を駆使したパワー勝負を得意としている。屈強な肉体でポジショニング争いを制し、高い跳躍力でリバウンドを量産する。2021年2月時点で4度のリバウンド王を獲得しており、ブロックショットは平均1.0ブロック以上を常に記録している。
オフェンスにおいても優れたフィジカルとボールハンドリングを武器にペイントエリアを制圧する。大型センターではあるが走力もあるので、セットプレーだけでなく、ある程度のトランジションにも対応できる。これを示すようにドラモンドはルーキーイヤーを除いて7年連続でシーズン平均ダブルダブルを記録している。

直近2年は3Pシュートを撃つことも増えており、年40本近くの3Pシュートを放っているが成功率は1割と非常に低い。ドラモンドがシューティングについては非常に不得意としているにも関わらず7%程度のシュートを放っているのは、ドラモンド個人の問題というよりはチーム状況に起因する部分が大きい。攻め手を欠いて撃たざるえなかったシュートと考えられる。
その反面、ペイントエリア内でのFG成功率は高い成功率を保っており、ポストでのプレーについてはオフェンス面でも計算できる。弱点はフリースローだが、2016−17シーズンまでは3割だった成功率は6割弱まで改善しており、ハック戦略(故意にファウルしてフリースローに持ち込む戦略)は回避できるようになっている。
トレード成立には有望若手 or 指名権が必要

キャバリアーズは2020−21シーズンも低迷しているが、コリン・セクストンとダリアス・ガーランドの有望バックコート陣が才能の片鱗を見せている。他にも2020年ドラフトのアイザック・オコロも計算できる戦力になりつつある。現状は勝ち星にはつながっていないものの、今後数年は若手主体に再建をしていくことが予想される。
その動きは、2021年1月に成立したジェームズ・ハーデンのトレードに付随したジャレッド・アレンの獲得にも示されている。アレンはリバウンドとブロックに長けた4年目の若手ビッグマンで、機動力を活かしたアンセルフィッシュなプレーを持ち味にしている。
現時点でのインサイドの制圧力はドラモンドに軍配が上がるものの、セクストンとの相性を考えるとより機動力のあるアレンを起用していくのはキャバリアーズの既定路線になっていた。そのため、プレーエリアや役割が被るドラモンドのキャバリアーズでの価値は減少していた。
現在27歳であるドラモンドは身体能力的には全盛期を迎えており、来オフに契約が切れるということもあって需要が高い。トレードデッドラインまで1ヶ月半近くあるタイミングで「ドラモンドをプレーさせない」という合意をしたということは、具体的なトレード交渉を行うとともに、相応の対価を要求していくことを暗に示していると思われる。
キャバリアーズは、2023年までケビン・ラブの超高額契約が残っており、現在のキャバリアーズに大物FAを連れてくるのは至難の技だ。こうしたチーム事情を考えると、ドラモンドの対価としては「長期的なチーム構想に入る若手プレーヤー」か「複数のドラフト指名権」と考えられる。
ドラモンド獲得が噂される7チーム

リーグ屈指のディエフェンシブ・センターの放出は大きな関心を呼んでおり、水面下では既にドラモンド争奪戦が繰り広げられている。幾つかのチームはキャバリアーズと具体的な交渉に入っていると報じられており、トレードが成立するまで様々な噂が錯綜すると思われる。また、3月26日のトレードデッドラインまでにトレードが成立しなかった場合は、ドラモンドの契約がバイアウトされる見込みであり、その後に単年契約を結ぶことになるだろう。
多くは噂の域を出ないが、2021年2月19日時点で下記の7チームがドラモンド獲得に興味あるといわれている。
トロント・ラプターズ
具体的にキャバリアーズと交渉を行っているという報道がされたチームの1つがラプターズだ。
ラプターズのディフェンス・レーティングはリーグ8位と相変わらずの守備の強さを誇っているが、サージ・イバカとマルク・ガソルが抜けた穴は大きく、インサイドに不安が残っている。機動力があるとは言えないドラモンド獲得には相応のリスクもあるが、アーロン・ベインズは機能しているとはいえず、攻守でインサイドを制圧できるドラモンドを獲得する価値が十分にある。
ただし、放出が噂されるカイル・ラウリーはキャバリアーズにとって魅力的とは言い難く、トレード要員を準備できるかがドラモンド獲得の成否に大きく関わるだろう。また、
ボストン・セルティックス
セルティクスはオフにキャバリアーズからFAとなっていたトリスタン・トンプソンと契約した。トンプトンはリバウンドに長けたビッグマンでドラモンドと似たタイプだ。トンプソンは及第点の数字を残してはいるものの、セルティクスにフィットしているとは言い難い状況だ。センターとしてもプレーできる4年目のダニエル・タイスが頭角を現しており、セルティクスがトンプソンと同タイプのドラモンド獲得に動くとは考えにくいだろう。
ポートランド・トレイルブレイザーズ
ユスフ・ヌルキッチが試合に出られない状況が続いているが、新加入のエネス・カンターが献身的にチームに貢献しており、チームもようやく波に乗ってきている。セルティクス同様にブレイザーズもセンターにより機動力が重視され流ため、2019-20シーズンのハッサン・ホワイトサイド同様に十分な活躍は期待できない可能性がある。ヌルキッチの離脱が長引くようであればドラモンド獲得を検討する可能性はあるが、カンターが及第点以上の活躍をしていることを考えると、積極的に動く可能性はそれほど高くはないと思われる。
シャーロット・ホーネッツ
ルーキーのラメロ・ボールを中心に、新鋭デボンテ・グラハムやゴードン・ヘイワードの復活で、久々のプレーオフ進出が視野に入っているホーネッツもドラモンド獲得を検討しているといわれている。
ドラモンドは物足りないインサイド陣をグレードアップすることができるが、コディ・ゼラー、PJ・ワシントンは及第点の活躍をしており、トランジションを得意とするラメロとの相性も悪くない。ディフェンス面での補強は課題ではあるが、ドラモンドとラメロの親和性は未知数だ。チーム状況としてはキャバリアーズと近く、ドラモンド獲得のために開花しつつある若手陣を差し出すかは微妙なところだ。(数々の不可解なチーム構築をしてきたジョーダンならやりかねないが)
ニューヨーク・ニックス
トム・シボドーHCのもとでリーグ3位のディフェンス・レーティングを記録しているニックスは、久々のプレーオフ進出が現実的になっている。一昨年にケビン・デュラントとカイリー・アービング獲得に失敗したものの、ジュリアス・ランドルやエマニュエル・クイックリーらを筆頭に若手がチームを引っ張っている。その一角を担っていたセンターのミッチェル・ロビンソンが骨折で離脱したことで、ニックスがインサイドの補強に乗り出す可能性は低くない。
ドラモンドはシボドーHCの戦術とも親和性があると考えられ、ピストンズでドラモンドとのプレー経験があるデリック・ローズも在籍している。ニューヨークはドラモンドの地元ということもあり、本人にとってもニックスは魅力的な移籍候補であるといえる。
ブルックリン・ネッツ
ケビン・デュラント、カイリー・アービング、ジェームズ・ハーデンの超攻撃的”BIG3″を結成したネッツは、ディフェンス面はリーグ下位に位置している。レギュラーシーズンはまだしも、プレーオフを勝ち抜くことを考えるとディフェンス面の強化は目下の課題だ。ディフェンス改善とネームバリュー的にネッツがドラモンド獲得に動く可能性は低くないが、スティーブ・ナッシュHCとマイク・ダントーニACの戦術にドラモンドが適合できるかには疑問が残る。
また、ネッツはハーデン獲得の際に多くのアセットを放出しており、トレードでのドラモンド獲得は困難であるため、バイアウトされた際に獲得することになるだろう。
ロサンゼルス・レイカーズ
連覇を狙うレイカーズもドラモンドに興味を持っているといわれている。
昨年チームを献身的に支えたドワイト・ハワードが移籍し、後釜としてマルク・ガソルを獲得したことでチームは好調を維持しているが、唯一の不安点がセンターポジションであるといえる。2021年2月19日時点でレイカーズのディフェンス・レーティングはリーグ1位だが、アンソニー・デイビス(AD)が怪我で離脱したことでインサイドの不安はより大きなものになっている。そのため、レイカーズがドラモンド獲得に動く可能性は十分ある。
しかし、ネッツ同様にレイカーズもトレードアセットが少なく、基本的にはドラモンドがバイアウトされることが獲得の前提となるだろう。また、インサイドでコンビを組むことになるADの復帰が遅ければ、プレーオフを目前にシステムを合わせられる時間も多くない。このように考えると、ドラモンド獲得はレイカーズにとってそれなりにリスクのある選択であると考えられる。