ポートランド・トレイルブレイザーズは、2019-20シーズン再開後のバブルで激しいプレーオフ争いを繰り広げている。8月11日現在、ウェスタン9位につけており、8位のグリズリーズとは0.5ゲーム差だ。
ブレイザーズの好調を支えているのはユスフ・ヌルキッチ、ザック・コリンズの復帰だ。インサイドで攻守にわたってリズムを生み出すことができるヌルキッチとコリンズの復帰によってボールの循環が改善し、デイミアン・リラードとCJ・マッカラムの両エースが動けるスペースを取り戻していることが大きい。他にも、1年以上NBAから離れていたカーメロ・アンソニーの復活などポジティブな話題に事欠かないブレイザーズだが、その中でも予想外だったのがゲイリー・トレントJrの覚醒だ。
頭角を現した2年目、再開後のバブルで急成長
ゲイリー・トレントJrは2018年ドラフト37位でNBA入りを果たした。父もNBAでプレーした2世選手で、デューク大では平均33.8分の出場で14.5点、4.2リバウンドという成績を残している。FG成功率41.5%、3P成功率40.2%というシュート力が売りだったが、NBA1年目は15試合の出場にとどまり、平均出場時間が7.4分で2.7点と苦労していた。
2年目の2019−20シーズンは中断前までで53試合に出場し、うち8試合は先発として起用されている。平均得点も7.7点と上昇し、FG成功率・3P成功率ともに及第点の成績を残している。この背景には主力選手が怪我で戦列を離れがちだったというチーム事情もあるが、貴重なベンチメンバーとして今後の成長が期待できる数字を残していた。
ステップアップした2年目だったが、トレントJrはオーランドで再開されたバブルで更なる覚醒を見せている。2018−19シーズン、2019−20シーズン、そして残り2試合を残した8月9日までの再開後シーズンの5試合の成績が下記だ。
2018-19 | 2019-20 | 再開後 | |
MIN | 7.4 | 21.3 | 34.7 |
PTS | 2.7 | 8.7 | 18.2 |
FG% | 32.0% | 44.4% | 52.5% |
3P% | 23.8% | 42.5% | 54.3% |
REB | 0.7 | 1.7 | 1.8 |
AST | 0.3 | 1.0 | 1.4 |
STL | 0.1 | 0.7 | 1.0 |
TOV | 0.3 | 0.3 | 0.2 |
+/- | -0.5 | -1.2 | 6.0 |
OFFRTG | 110.3 | 111.3 | 121.4 |
DEFRTG | 115.1 | 113.4 | 115.3 |
NETRTG | -4.7 | -2.1 | 6.0 |
TS% | 37.7% | 58.8% | 74.9% |
PIE | 2.3 | 7.2 | 9.7 |
目立つのはFG成功率と3P成功率の大幅な向上だ。シーズン再開後は双方とも50%を大きく超えており、TS%は74.9%とリーグのトップシューター以上の数字を残している。2019−20シーズンのトータルでも40%超えを果たしていることから、大学時代から評価されていたシューターとしての能力を完全に証明したといっていいだろう。
100ポゼッションで換算した数字が下記だ。
2018-19 | 2019-20 | 再開後 | |
PTS | 16.5 | 19.3 | 24.9 |
REB | 4.5 | 3.7 | 2.5 |
AST | 2.1 | 2.2 | 1.9 |
STL | 0.4 | 1.6 | 1.4 |
TOV | 1.7 | 0.7 | 0.3 |
+/- | -3.3 | -2.7 | 6.0 |
100ポゼッションで見ると、2019-20シーズン再開後は平均24.9点とチームのエース級の成績だ。ブレイザーズは、リラードとマッカラムというリーグ有数のバックコートコンビを擁しているが、その一角に迫るほどの得点力を見せている。
また、スティールを大幅に伸ばしており、ターンオーバーは半減している。特にターンオーバーはシーズン再開後にはさらに減少しており、ミスの少ない安定したパフォーマンスを見せていることがわかる。
リバウンド、アシストについては減少傾向にあるが、これはブレイザーズにおいてトレントJrの役割が明確になっていることの裏返しと考えられる。アシストについてはリラードとマッカラムがそれなりに多いことに加えて、コリンズがインサイドでのハブになる場面も多い。ヌルキッチとコリンズの復帰に加えて、ブロック王を獲得したハッサン・ホワイトサイドが以前よりも機能していることから、トレントJrがリバウンド争いに絡む必要が少なくなっていると考えられる。本来のメンバーが戻ってきたことで、トレントJrの役割を得意のシューティングに特化することができている。
ブレイザーズの勝ちパターンが流用できる
試投数は大きく違うが、トレントJrのシュートエリアはリラードと近しく、リラード用のオフェンスシステムをそのままトレントJrでも流用することができる。このことも彼がブレイザーズにマッチしている要因だろう。
◼︎ トレントJrのシュートチャート

◼︎ リラードのシュートチャート

◼︎ マッカラムのシュートチャート

シュートチャートを見ると、トレントJrのチャートは3Pに偏っており、比較的リラードと近いシュートエリアを持っていることがわかる。リラードの方がペリメーターでのシュートが多いのは、攻撃の起点になっていることでカットインする場面がそれなりにあることと、マッカラムとプレーエリアを共有することが多いことによると考えられる。
一方、マッカラムは3Pシュートよりもウイングやペイントエリア周辺でのシュートが多い。ブレイザーズは2人のエースガードが頻繁にスペース展開していくシステムを得意としているが、このシステムが機能するためには微妙にプレーエリアが重ならない必要がある。トレントJrが得意とするプレーエリアはリラードと近いが、リラードがペリメーターでのプレーもできるため、棲みわけをすることができる。これがトレントJrがブレイザーズのオフェンスシステムで機能している要因と考えられる。
第二のリラードになれるか?トレントJrの起用法
では、トレントJrは未来のリラードになりうる選手だろうか?
この疑問を検証するために、トレントJr、リラード、マッカラムの2年目の成績を比較したスタッツ表が下記になる。ちなみにリラードは新人王を獲得した直後のシーズンであり、マッカラムはMIPを獲得する前年の成績となっている。
トレントJr | リラード | マッカラム | |
MIN | 34.7 | 35.8 | 15.7 |
PTS | 18.2 | 20.7 | 6.8 |
FG% | 52.5% | 42.4% | 43.6% |
3P% | 54.3% | 39.4% | 39.6% |
REB | 1.8 | 3.5 | 1.5 |
AST | 1.4 | 5.6 | 1.2 |
STL | 1.0 | 0.8 | 0.7 |
TOV | 0.2 | 2.4 | 0.8 |
+/- | 4.4 | 4.4 | 1.9 |
OFFRTG | 121.4 | 111.5 | 101.7 |
DEFRTG | 115.3 | 105.5 | 97.0 |
NETRTG | 6.0 | 6.0 | 4.7 |
TS% | 74.9% | 56.8% | 53.4% |
PIE | 9.7 | 11.7 | 7.9 |
続いて100ポゼッション換算での数字をみたいと思う。
トレントJr | リラード | マッカラム | |
PTS | 24.9 | 28.5 | 21.3 |
REB | 2.5 | 4.8 | 4.6 |
AST | 1.9 | 7.7 | 3.2 |
STL | 1.4 | 1.1 | 2.2 |
TOV | 0.3 | 3.2 | 2.4 |
+/- | 6.0 | 6.0 | 5.9 |
2年目のリラードと比較すると、シュート確率以外は見劣りする数字だ。これは役割の問題もあるが、ゲームメイクやアシストについては大学時代から苦手としており、純粋なSGとしての起用が最も適していると考えられる。オフェンスの起点には現時点ではなりえなく、100ポゼッションでの比較でもマッカラムの後塵を拝していることから、スポットプレーヤーという位置付けからの脱却を考えると今後のの課題となるだろう。
その他で目立っているのはターンオーバーの数が非常に少ないということだ。これもボールを保持する時間が長いリラードとマッカラムとの違いはあるのもの、スポットプレーヤーが故の数字であると考えられる。しかし、高確率でシュートを決めることができるシューターで、かつミスが少ないプレーヤーは強豪チームで重宝される要素だ。現状ではアシストの能力はないため、ゲームメイクができる司令塔とのプレーで力を発揮できるタイプであるといえるだろう。
トレントJr | マッカラム | |
PTS | 24.9 | 29.3 |
REB | 2.5 | 6.0 |
AST | 1.9 | 4.6 |
STL | 1.4 | 1.7 |
TOV | 0.3 | 3.4 |
+/- | 6.0 | 2.8 |
2019−20シーズン再開後の5試合のみの成績換算ではあり、かつ無観客試合という特殊な状況での数字ではある。しかし、少なくともバブルではMIP級の成績を残しているといえ、主力プレーヤーとして十分に通用している。ただし、前述の通りオフェンスの起点にはなりえないため、クリッパーズのルー・ウィリアムズのようにベンチからの起爆剤としての起用されるのが現時点ではベストシナリオと考えられる。
ブレイザーズはロドニー・フッド、トレバー・アリーザら、控えのベテランメンバーがバブルに参加しておらず、マッカラムは背中に怪我を負ったままプレーしている。2019-20シーズンでのプレーオフ進出、その後に対戦するであろう第1シードのレイカーズ戦を考えると、トレントJrのシュート以外での貢献はブレイザーズ躍進のキーポイントになるだろう。
また、来オフにはカーメロとホワイトサイドが契約満了となるが、少なくともその2人以外の戦力は維持したまま2020-21シーズンを迎えることになる。バブルで噛み合い始めたカーメロの再契約は気になるところであるが、トレントJrのバブルでの活躍が本物であればブレイザーズは優勝候補の一角になるだろう。