再建期を迎えたキャバリアーズ
2003年にレブロン・ジェームズを、2011年にカイリー・アービングをドラフト1位指名して以降、レブロンがマイアミ・ヒートに所属していた数シーズンを除いてクリーブランド・キャバリアーズはレブロンを中心にチーム運営を行ってきた。「戦術レブロン」と揶揄されることもあるが、歴代最高のオールラウンダーの呼び声も高いレブロンの影響力は絶大で、ゴールデンステイト・ウォリアーズとのライバル関係は多くのNBAファンを熱狂させたことは記憶に新しい。
2017年にカイリーが去り、2018年にはレブロンがチームを離れたことでキャバリアーズは完全に再建モードに入った。当時の主力としてチームに残っているのはPFのケビン・ラブ、Cのトリスタン・トンプソンの2人のみであり、双方とも実力派ビッグマンであるが、単体でチームを勝たせることができるタイプの選手ではない。
ラブはキャリア序盤はウルブズの絶対的エースとして活躍し、31歳となる現在でも得点とリバウンドでシーズン平均2桁を狙うことは容易だ。しかし、単体で勝負できる選手ではなく、レブロンのゲームメイク力とカイリーの突破力をバックアップすることで活きるプレースタイルだった。
疑問含みのドラフト指名

キャバリアーズは2018年にドラフト8位でPGのコリン・セクストンを獲得した。ルーキーイヤーは平均16.7点、3.0アシストとまずまずの成績を残し、FG成功率43.0%、3P成功率40.2%、FT成功率83.9%と高確率で得点を決めている。これはルーキーとしてはステフィン・カリー以来の快挙であり、キャバリアーズはセクストンを中心にチームを作ると考えられていた。
レブロンとカイリーという核が抜け、セクストンを中心に再建しようとするチーム方針であれば、セスクトンの相棒となれる選手を指名するのが通例だ。しかし、2019年ドラフト5位指名で獲得したのはヴァンダービルド大のダリアス・ガーランドだった。
ガーランドはセクストンと同じく攻撃型のPGだ。シュート力とハンドリングはカイリーとも比較され、2019年ドラフト時では「今ドラフトで最高のPG」という評価を得ていたが、セクストンと同じポジションで同じ身長のガーランドの指名は物議を醸した。のちに球団首脳陣が語った内幕としては、「本来は4位指名されたSFのディアンドレ・ハンターを狙っていた」とのことだが、ハンターがホークスに指名されたことで、「残った候補生の中からベストな選手を指名した」と述べている。
たしかにガーランドはドラフトクラスでも上位に入る選手だ。しかし、セクストンとの相性を考えると6位指名されたSG/SFで起用できる3Pシュートに定評があったジャレット・カルバーを指名するという選択肢もあった。セクストンは得点力は高いが、シュートセレクトが良いとはいえない。セクストンの得点力を活かすためにも、外から得点を狙えるカルバーの獲得は悪くない選択だったはずだ。
また、ラブとトンプソンがチームの将来的な構想に入っていないことを考えると、ジャクソン・ヘイズや八村塁といったビッグマンを指名するという選択肢もあった。しかし、カルバー、ヘイズ、八村は素材型の選手と目されていたため、彼らを指名しなかったのは即戦力を求めてのものだろう。実際、ドラフト時の完成度はガーランドが4人の中ではもっとも高かった。
セクストンとガーランドの2ガード起用をするとしても、2人とも188cmとNBAでは小柄で、ディフェンス面で厳しくなることは明白であり、それでもガーランドを獲得したということで「戦略なき再建」という印象をファンに与えることになった。
セクストンとガーランドはどちらがPGとして優秀?

2019−20シーズンの成績は、下記のようになっている。
MPG | PPG | AST | FG% | 3P% | +/- | |
コリン・セクストン | 33.0 | 20.8 | 3.0 | 47.2% | 38.0% | -6.1 |
ダリアス・ガーランド | 30.9 | 12.3 | 3.9 | 40.1% | 35.5% | -5.0 |
出場時間が約1分差なのに対し、平均得点ではセクストンが7.5点リードしており、FG%や3P%も高い数字を記録している。キャバリアーズがリーグ下位のチームであることもあるが得失点差は2人ともマイナスで、セクストンの方が約-1となっている。単純な成績だけを見ると「オフェンス力のセクストン」「少しアシストが多いガーランド」という評価になる。
しかし、100回あたりの得点/失点を示す「オフェンス・レーティング(OFFRTG)」や「ディフェンス・レーティング(DEFRTG)」を見てみると、すこし様子が変わる。
セクストンのOFFRTGは107.8点で、ガーランドは105.2点となっている。つまり、オフェンス回数100回で換算すると、セクストンとガーランドのオフェンス効率はシュート2回分程度の差となっている。平均得点では7.5点差と大きな差があるが、オフェンス効率ではガーランドとセクストンの差は見た目ほど大きくないといえる。また、DEFRTGではセクストンが117.0失点、ガーランドが113.8失点となっておりオフェンス以上に明確な差が出ている。チームが弱いため単純な得失点差では分かりにくかったが、100ポゼッション当たりの効率でみると、現時点ではガーランドの方が攻守で効率の良い選手であることが分かる。
PGとして重要なアシストや安定感はどうだろうか?
選手のアシスト能力を測る指標としてAST%というものがある。AST%は「仲間が決めたシュートの何%がその選手のアシストだったか」を示す数字だ。2019-20シーズンのAST%はセクストンが14.6%で、ガーランドは18.2%となっている。また、選手の安定感を示すアシスト・ターンオーバー比率(AST/TO)は、セクストンが1.22、ガーランドが1.52となっている。
近年は攻撃型PGが増えており、セクストンもガーランドも攻撃型PGにカテゴライズされる。しかし、PGというポジションの特性上ボールを保持する時間が長く、チームのオフェンスの起点となることが多い。そう考えると、アシスト能力と安定感で上回っているガーランドの方がよりベターな選手という結果になっていると考えられる。
まとめると、ゲーム平均での得点力はセクストンの方が高いように思われるが、これはセクストンがチームオフェンスが少なく、個人技に頼ったオフェンスになっているという側面がある。事実ディフェンスを振り切れていない状態でのタフショットも多く、得点効率でみるとセクストンとガーランドの差は平均得点ほどの差はない。また、ディフェンス面においては現状は2人とも平均以下のディフェンダーと言わざるえないが、実際のゲームを見てみるとガーランドの方がディフェンスへの意識が高いように感じる。
ガーランドが1年目ということを加味しても、ガーランドの方がよりベターな安定感のあるPGになる可能性を秘めているといえる。
2020-21オフシーズンの動き方

2020-21シーズンはキャバリアーズにとって再建3年目を迎えることとなる。2019-20シーズンの成績がイースト最下位であるため、ドラフト指名権も上位が期待できる。そこで「キャバリアーズはどのように動くべきだろうか?」を考えてみよう。
まず、2020年ドラフトはPGが豊作といわれているが、3年連続で上位指名権をPGに使うのは愚の骨頂だ。ガーランドが将来的によりベターなPGとして期待できるのであれば、一旦は弱いSGやSFの獲得を考えるべきだし、ラブやトンプソンが構想に含まれていないのであればPFやCといった選択肢も悪くない。つまり、キャバリアーズがドラフトで指名すべきはPG以外のポジションということだ。
リーグ最下位のウォリアーズがビッグマンを獲得するであろうことを考えると、SG/SFで高い能力を持つジョージア大のアンソニー・エドワーズは魅力的だ。フィジカル面は既にNBAでも通用するといわれており、内でも外でも得点することができる。また、アスレチック能力が高く、爆発力もあるためチームのエースになる可能性を秘めている。ジョージア大でエドワーズを指導するトム・クリーンHCはドウェイン・ウェイドやビクター・オラディポを育てた実績があり、似たタイプのエドワーズもリーグのエリートになる可能性がある。
2020オフシーズンにプレーヤーオプションであるアンドレ・ドラモンドとオプション行使or再契約できれば、エドワーズの獲得はもっともよい補強になりえる。ガーランド、エドワーズ、ドラモンドの核は魅力的だ。
エドワーズが獲得できない場合、リーグ29位のディフェンスを強化するという意味でフロリダ大のスコッティ・ルイスを指名する選択もある。オフェンス面で才能を発揮しているポーターJrと併用することもでき、オフェンス型のポーターJrと強みが被らないのは強みだ。
理想的なシナリオとしては、下記ではないかと思う。
- ガーランドを先発PGとして育成する。
- ドラモンドと再契約。
- ドラフトでアンソニー・エドワーズを獲得する。
- 構想に入っていないラブを放出してサラリーを空ける。
- セクストンやオスマンをトレード候補として、インサイドの選手を獲得する。
- シーズン終盤に活躍したケビン・ポーターJrを起用していく。
- ラリー・ナンスJrをキープする。
- (できれば)ヘイワードやガリナリなどのウィングのFAと契約。
PG | SG | SF | PF | C | 6th |
ダリアス・ ガーランド | ケビン・ ポーターJr | アンソニー・ エドワーズ | ゴードン・ ヘイワード | アンドレ・ ドラモンド | ラリー・ ナンスJr |
キャバリアーズ首脳陣がチーム再建が苦手ということは、過去のドラフト指名やトレードなどからも証明されている。ガーランドを軸にするか、セクストンをエース候補としてキープするのか、この選択は今後数年間にかかわる大きな決断となる。