2021年に入って2ヶ月、ユタ・ジャズが絶好調だ。
強豪ひしめくウエスタンで圧倒的首位をキープし、1月は13勝3敗、2月23日の時点で2月は10勝1敗という好成績を残している。東の優勝候補であるフィラデルフィア・セブンティシクサーズやミルウォーキー・バックスにも安定して勝利しており、もっとも勢いがあるチームの1つになっている。
2019-20シーズンも強豪チームの1つだったジャズだが、優勝候補の一角と見做されるほどではなかった。まだシーズン前半ではあるが、ジャズが2020−21シーズンの優勝候補のダークホースに名乗りを挙げる可能性も低くはないだろう。
クイン・スナイダーHCの戦略がチーム全体に浸透

ジャズの2020-21シーズン2月23日までの数字と、前シーズンの主要数字が下記だ。
2019-20 | 2020−21(2月23時点) | |
PTS | 111.3 | 116.0 |
ORTG | 112.3 | 117.7 |
DRTG | 109.9 | 107.9 |
PACE | 98.6 | 98.6 |
eFG% | 59.4% | 56.5% |
3P% | 38.0% | 39.7% |
ORB% | 21.6 | 25.6 |
DRB% | 78.9 | 79.0 |
2019-20シーズンの成績と比較してみると、オフェンス・レーティングを5点以上伸ばしている。これはリーグ3位の成績であり、オフェンスとディフェンスの差を表しているネット・レーティング(NET RTG)は+9.7でリーグ1位となっている。
この数字だけ見ると「オフェンス効率が上がった」と見えるのだが、詳しく見てみるとオフェンス・リバウンドの確率が上がっていることが分かる。ディフェンス・リバウンドの確率とペースは昨年から大きく変わっておらずシュート成功率もほぼ横這いであることから、オフェンス・リバウンドをしっかりと獲れる状態でシュートを撃てており、セカンドチャンスで得点できていることが分かる。
これを実現しているのがクイン・スナイダーHCの戦術だ。
ジャズは昨年から主力メンバーをほとんど変えておらず、新加入のデリック・フェイバーズも2年前にジャズに在籍していた。そのため、ルーキーを除く主力選手全員がスナイダーHCの戦術を理解しており、選手の役割の明確化につながっていることが伺える。
ルディ・ゴベアが攻守で健闘

スナイダーHCの戦術もさることならが、ジャズを語る上でドノバン・ミッチェルとルディ・ゴベアの2人のエースを欠くことはできない。
ゴベアは最優秀守備選手にも選ばれた超ディフェンシブ型のビッグマンで、オフシーズンにはジャズと5年2億500万ドルの超高額契約を結んだ。この契約はシーズンMVP経験のあるヤニス・アデトクンボ、ラッセル・ウエストブルックに次ぐ高額契約で、単体でオフェンス面で期待できないゴベアにこの契約は高すぎるという意見は多い。

ゴベアは4年契約の1年目であり、その1年目もまだ前半戦だ。ゴベアの契約の是非は今後評価されていくだろうが、少なくともこれまでの約30試合ではゴベアは驚異的な活躍をしている。
ジャズのオフェンスはトップでゴベアがスクリーンを掛け、ピック&ロールで攻めることを基本とする。
強靭な肉体とスピードがあるためペイント内に入ったゴベアを止めることは簡単なことではなく、ディフェンス側はスイッチかダブルチームにいくことになるが、それを誘発することで3Pラインに配置した3人のシューターが活きてくる。このシステムにジャズの3Pシュートの試投数はリーグ1位(昨年はリーグ8位)を記録しており、ゴベアがリバウンド体制を整えられることでセカンドチャンスの確率も上がる。
また、ディフェンス面においてもゴベアは非常に重要な役目を果たしている。
元々ペイントエリア内での支配的なディフェンス力は今季も健在で、ペリメーターで厳しいプレッシャーをかけるロイス・オニールとの相性が非常に良い。オニールがコースを狭め、ゴール下にゴベアがポジショニングしていることでオフェンス側はタフショットを打つか、アウトサイドシュートに頼ることとなる。この戦術はバックス戦でヤニス・アデトクンボに対しても機能していたことから、ある程度の有用性が証明されているといえる。
ジャズは今季優勝を狙えるチームか?

ゴベアの強みを攻守で巧みに取り入れたジャズのシステムは、これまでのところ十分すぎるほど機能している。では、ジャズは強豪ひしめくウエスタンを勝ち上がり、NBA優勝を目指すことができるチームだろうか?
インサイドのゴベア、アウトサイドのミッチェルと異なるエリアに2人のエースプレーヤーを擁し、彼らの周りをジョーダン・クラークソン、ジョー・イングルズ、マイク・コンリーなどの優秀なシューターが固める。また、ディフェンス面ではロイス・オニールを中心に堅実なディフェンダーが揃っており、インサイドでは守護神ゴベアが健在だ。
こうした布陣は昨年ファイナル進出を果たしたマイアミ・ヒートと通じる部分がある。
優勝を目標に据えた場合は懸念点もある。
プレーオフはレギュラーシーズン以上にディフェンスが厳しくなるため、ゴベアを中心とするシステムには厳しい対策をされるだろう。ジャズの一芸に秀でたシステムを強みとしており、プレーオフを勝ち進むには1997年/1998年のジョン・ストックトンとカール・マローンのピック&ロールのように「分かっていても止められない」レベルまで戦術を昇華させる必要がある。残念ながら、ゴベアに対応できる機動力のあるビッグマンが所属するクリッパーズ、ナゲッツなどには敗れており、ゴベアを使ったピック&ロールはまだ「分かっていても止められない」域までは達していないといえる。
ゴベアが封じられればジャズは1on1での突破を模索することになるが、独力で打開できるのはミッチェルとクラークソンにほぼ限られている。ミッチェルやクラークソンは1人でゲームを引っ繰り返せるスコアリング能力を持っているが、ゴベアを止められたことで機能不全に陥ったシューター陣が無力化されればミッチェルやクラークソンへのディフェンスはより厳しいものになる。
ウォリアーズのスティーブ・カーHCは、「選手の役割が明確で、理解が浸透している。これは2018年頃のウォリアーズとも似ている。」と評しており、ジャズが優勝を視野に入れるためには、「ゴベアのピック&ロールをどこまで昇華できるか?」という点が不可欠になる。ジャズが真の優勝候補と目されるにはまだ時間がかかるかもしれないが、ストックトン/マローン体制以降でもっともファイナル進出に近づいているシーズンであることは間違いないだろう。