2024-25シーズンのプレーオフも佳境に入り、西からは1位のオクラホマシティ・サンダーが、東からは4位のインディアナ・ペイサーズがNBA Finalsへと駒を進めた。レギュラーシーズンから圧倒的な勝率でリーグを席巻したサンダーと、プレーオフで劇的な逆転劇を繰り広げたペイサーズの対戦となるが、この2チームにはいくつかの共通点がある。
・スモールマーケットのチーム
・トレードとドラフトで有望な若手を育成
・この能力よりも、チームバスケットを主体とする
・全体的な運動量が相手を上回る
・どちらのフランチャイズも、設立以来優勝経験がない
こうした特徴が両チームの特徴であるが、ここまで顕著ではないが過去数年はミルウォーキー・バックスやデンバー・ナゲッツという期待値が低かった若手をスーパースターに育て、優勝を果たしたチームがNBAを制覇している事例も増えている。
以前はスーパースターを擁するビッグマーケットが王朝を築くことも少なくなかったが、ウォリアーズ王朝が終わった2019年以降は毎年優勝チームが入れ替わっており、連覇も起こっていない。
これはNBAの70年台から続くトレンドの大きな転換点であるといえる。
2019 トロント・ラプターズ(vs ゴールデンステイト・ウォリアーズ)
2020 ロサンゼルス・レイカーズ(vs マイアミ・ヒート)
2021 ミルウォーキー・バックス(vs フェニックス・サンズ)
2022 ゴールデンステート・ウォリアーズ(vs ボストン・セルティックス)
2023 デンバー・ナゲッツ(vs マイアミ・ヒート)
2024 ボストン・セルティックス(vs ダラス・マーベリックス)
今回は「The F5」という海外サイトに、このトレンドに対する記事が載っていたので意訳翻訳しつつ、考察していきたいと思う。
【意訳:翻訳】The NBA Has Entered Its Weak Link Era(by The F5)
↓元記事はこちら

「ウィークリンク」という概念
2011年にクリス・アンダーソンとデビッド・サリーはサッカー分析に関する著書『The Numbers Game 』を出版した。彼らは著書の中でバスケットボールやサッカーといったスポーツの重要な違いについて述べている。アンダーソンとサリーによると、バスケットボールは「ストロングリンク」のスポーツであり、サッカーは「ウィークリンク」のスポーツであるとされている。
ストロングリンクスポーツとは、「最も優れた選手を擁するチームが通常勝利するスポーツ」と定義される。NBAでいえばマイケル・ジョーダンやレブロン・ジェームズといったトップ選手が在籍しているチームが勝利する可能性が高いということを指している。一方のウィークリンクスポーツとは、「最も劣る選手のいないチーム」が勝利しやすいということである。
このストロングリンクとウィークリンクという概念は、2025年のNBAを理解する重要なポイントだ。特にプレーオフでのチームの成否を理解する上で、バスケットボールをウィークリンクスポーツという観点で見ることは面白い試みだ。
プレーオフではディフェンスの弱い選手が容赦なく攻撃され、消極的なシューターは露骨に無視される。チームのベストプレーヤーがどれだけ優れていても、ウィークプレーヤーがいれば攻守で4対5の状況に陥るため、ベストプレーヤーの影響力さえ打ち消してしまう可能性さえある。
現代NBAにおけるディフェンス戦術は、5人のディフェンダーが常に同じ陣容を保ち、ローテーションを組むことで互いにカバーすることが求められる。しかし、そのローテーションに1つでも弱点があれば、チームディフェンスは崩壊する。オフェンス面でどれだけ優れた1on1技術を持っていても、ディフェンス能力が求められるプレーオフにおいてはやはり大きな弱点となる。
それと同時に、オフェンスについては最低限のフロアバランスが求められる。いくらスキルと才能があったとしてもスペーシングを潰し、ディフェンス側に狙いを絞らせる選手では意味がない。こうした弱点となる選手がいることは、強度が高まるプレーオフでは大きな差分となる。
元記事ではこの後に、プレーオフに進出した各チームをウィークリンクの観点から考察し、1回戦の予想が行われている。この詳細については元記事を参照していただければと思うが、8試合中6試合の勝利チーム予想を当てている。特にメディア界隈で不利とされていたペイサーズ vs バックスの対戦において、ヤニス・アデトクンボというストロングリンクに対してウィークリンクが少ないペイサーズ勝利を予測しており、実際にバックスのウィークリンクがストロングリンクを上回ったという結果は驚愕に値する。
サンダーについてもシェイ=ギルジャス・アレキサンダー(SGA)という圧倒的なストロングリンクがあるが、同時にウィークリンクが低いことが強みとなっており、この観点でいうとペイサーズとサンダーがNBA Finalsに進んだことはある種の必然とも言えるだろう(いかに再現性を持たせるかが非常に難しいが)。
記事内の1回戦予想で外れた2試合については、ウィークリンクとして上げられていたのはラッセル・ウェストブルックとジェイデン・マクダニエルズだった。両名ともシリーズを通して効果的な働きをしており、レギュラーシーズンよりもウィークリンクをある程度隠すことができ、結果的にこの2人をウィークリンクにならないような戦術を取れたことで結果が覆ったのではないかと思う。
ウィークリンクの概念は一過性のトレンドか?
最後に、ストロングリンクとウィークリンクの関係について一言。
NBAがウィークリンクの時代に突入した理由の一つは、リーグのタレントプールがかつてないほど厚くなったことだと考えている。つまり、コート上で最も優れた選手と最も劣る選手の差は以前よりも小さくなっているということです。そのため、プレーオフのシリーズを通して「最強の選手」が持つ影響力は以前よりも低下しているともいえる。
しかし、NBAが新フランチャイズを設立して31チームまたは32チームに拡大することになれば相対的にタレントプールが希薄化し、「ストロングリンク」が再び注目を集める可能性はある。そのため、全体の潮流からいうとウィークリンクの時代は一時的な現象に過ぎないのかもしれない。
記事が指摘している通り、新フランチャイズ設立によって選手が分散化されることで相対的にタレントプールを薄くなり、ストロングリンクの時代に戻ることは考えられる。しかし、個人的にはそれも一過性のものであり、2000年代以前に顕著だった「スーパースター・パワー」の時代には当面は戻らないのではないかと思う。
その理由としては、下記が挙げられる。
・CBA(NBAとNBAの労使協定)によってサラリーキャップに制限が設けられている流れ
・海外リーグ / 国際試合のレベル向上
・NCAAのプロスポーツ化
・リーグの高速化
上記の要因によって、確かにフランチャイズ増設による一時的な選手層の薄さにはつながるが、海外リーグやNCAAの選手レベルが以前よりも完成されているため、中長期的にはパワーバランスが崩れることはないのではないかと思う。実際に即戦力ルーキーは増えており、ルカ・ドンチッチやニコラ・ヨキッチなどの海外プレーヤーは「リーグの顔」となっているし、ドラフト下位指名で1年目や2年目からローテーションに入る選手も珍しくなくなった。
実際にNBA Finalsに出場するアレックス・カルーソやルーゲンツ・ドート、アンドリュー・ネムハードなどは各チームの核を担う選手だが、ドラフト時の彼らの評価は決して高いものではなかった。
こうした点から見ると、NBAする時点での選手の質(完成度)は相対的に高まっており、これにシューズやトレーニングの技術向上もあって、かつてないほど選手のパフォーマンスが高まっているといえる。基本的に技術は不可逆的なものであり、再現性が求められる部分については今後も低下はしないはずだ。突出した才能を持つ一部のスターパワーは今後も間違いなくNBAの中心であり続けるだろうが、彼らを支えるロールプレーヤーの質は決して低くならないのではないかと思う。
こうした状況を見ても、新フランチャイズが設立されたとしても数年間での戦力均等化は可能であるし、スターパワーが以前ほどの決定的な差になることも少なくなるのではないかと思う。
スーパースターの存在感は今後もリーグの中心であることは間違いない。しかし、プレーオフではそれ以上にロールプレーヤーの貢献度や弱点の補完が重要となる。
今シーズンのNBA Finalsに進んだサンダーにはシーズンMVPを獲得したSGAが在籍しているが、個人の能力に加えてエースの弱点や特性を補完する選手たちを集められたことが大きい。ペイサーズにおいてもハリバートンに合う選手を周りに固めており、これにより補完関係が成り立っている。特に守備面で補完できるアーロン・ニースミスなどは他チームではこれほどの成果は残せなかったかもしれない。
ドラフト指名権を多分に活用したサンダーと、「マネーボール」よろしく他チームで過小評価になっている一芸に秀でた選手をスカウティングして育てたペイサーズという差はあるが、どちらも安易にスターパワーに頼らなかった点は共通している。これは両チームがFAに不人気の地方都市ということにも起因しているが、スモールマーケットのチームでもチャンスを掴めるという証左に他ならない。
・チームの中心となるスターの選定(場合によっては育成)
・中心選手のパフォーマンスだけに依存しないシステム構築
・契約効率を最大化するためのスカウティング
・オーナーの過剰干渉の抑制
・忍耐力
バックヤードの仕事は当然ながら以前から重要ではあったが、ビッグマーケットについても今後はより重要となるだろう。「明確な中期ビジョン」と「スカウティング」の2つがキーワードだ。

