去就が注目されるパスカル・シアカムのトレードは成立するか?

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トロント・ラプターズのエースプレーヤーであり、オールスター出場経験を持つパスカル・シアカムのトレード噂は、2023-24シーズンの大きなトピックの1つであり、全世界のNBAファンが彼の去就に注目している。

OGアヌノビーを放出したラプターズはリビルドに舵を切っていることは間違いなく、シアカムの放出は時間の問題とみられている。有力なトレード先としてはさらに上位を狙いたい好調なペイサーズ、サンダー、マーベリックスや、梃入れを行いたいネッツ、ピストンズ、ウォリアーズなどが挙げられることが多い。

目次

ラプターズの状況

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2019年にリーグ優勝を果たしたラプターズだが、新時代のエース候補であるスコッティ・バーンズを中心としたリビルド(再構築)に踏み出そうとしている。

2023-24シーズン終了後に長年チームを牽引してきたOGアヌノビーをニックスに放出し、対価として地元のスター候補であるRJバレットと、若手スコアリングPGのイマニュエル・クイックリーを獲得した。まだ数試合ではあるが2人とも水を得た魚のように活躍しており、スコッティ・バーンズを中心とした若手コアとしてチームの構想に入っていることは間違いない。特にバレットは地元の有力選手として学生時代からカナダでの人気が高く、興行的にも大きなインパクトがあるとみられている。

これまでチームを牽引してきたコアメンバーを放出し、一定の実績を出している有力な若手を連れてきていることから完全な再建ではなく、サンダーやペイサーズのような早い段階でオールスター候補になりえる若手選手と指名権を集めて短期間でチームを再構築していく「リビルド」を目指しているのではないかと思う。
サンダー(オクラホマシティ)もペイサーズ(インディアナ)も市場的にはスモールマーケットであり、大物FAを獲得しにくいという事情がある。この点は唯一のカナダのチームであるラプターズも似たような状況にあり、新人王を獲得した22歳のバーンズを中心にリビルドしていくことが再建への最短距離になるのは間違いないだろう。

一部報道ではシアカムはMAX契約を望んでいると言われており、28歳のシアカムに5年MAX契約を与えるとなるとチーム構築において柔軟性が失われ、ラプターズとしてはバーンズやバレットの再契約問題にも影響を及ぼしかねない。シアカムは年齢的に選手として最盛期を迎えており、彼の全盛期はバーンズのタイムラインとは合わない。こうなってくるとチームの1stオプションとしてのボールシェアの問題も出てくるため、チームとしては明確に方向性を示す必要が出てくる。これらが、基本的にシアカムを残す可能性は非常に低いと思われている要因だ。では、シアカムを放出するとして、ラプターズはどのような見返りを求めるだろうか?

OGアヌノビー放出に際しては前述の通り、RJバレット、イマニュエル・クイックリーという若手有望株2人と2巡目指名権を手に入れている。不成立となったトレード案に関しても基本的には若手有望株やドラフト指名権を複数求めていたと報じられており、おそらくシアカム放出に関しても同様のアセットを求めるだろう。これらのことを考えると、シアカムのトレードには下記の条件が必要となる。

  • TORが欲しい若手ドラフト上位選手と指名権
  • シアカムとサラリーが対等になる20M程度のベテラン選手
  • 来季以降もシアカムがトレード先のチームに残るという確証(再契約)

これらの条件が合わず、2024年2月8日のトレードデッドライン(TDL)を超えた場合は、来オフにサイン&トレードを模索することになりそうだ。

トレード候補となるチームと考察

それではシアカムがトレードされるとして、候補チームとされている各チームとの利害関係は成立するだろうか?

米国主要メディアの1つである『The Athletic』のラプターズ付きのリードライターであるエリック・コリーン(Twitter @ekoreen)が執筆したシアカムのトレードについての考察記事が公開された。この記事をもとにシアカムのトレードについて独自考察も交えつつ考察していきたい。
参考記事:https://theathletic.com/5193654/2024/01/11/pascal-siakam-trade-raptors/

候補1:インディアナ・ペイサーズ

To Indiana: Siakam
To Toronto: Benedict Mathurin: Jarace Walker, Buddy Hield, better of Indiana or Oklahoma City 2024 first-round picks

代表的なトレード案として言われているのは2022年ドラフト6位のベネディクト・マスリンや、2024年ドラフト8位のジェイレス・ウォーカーを含めたパッケージだ。さらに今季で契約満了となるバディ・ヒールドかブルース・ブラウンをサラリー合わせで組み合わせており、ラプターズにとっては再建に向けて最適なプランだといえる。しかし、半年間のレンタル移籍になる可能性があるシアカムへの対価としては高く、23歳のタイリース・ハリバートン中心のチーム作りをしているペイサーズがタイムライン面でも合わないシアカムの獲得にここまでの対価を放出するとは考えにくい。

To Indiana: Siakam
To Toronto: Better of own and Oklahoma City 2024 first-round picks, top-four protected; Obi Toppin, Jordan Nwora and Bruce Brown.

このトレード案はドラフト指名権と2023-24シーズン後に契約が切れる選手を中心としているが、ペイサーズもサンダーも現時点ではプレーオフ進出が現実的な順位におり、ラプターズが求める指名順位にはならないだろう。また、ラプターズもスモールマーケットであり、大物FAの獲得のためのサラリーキャップ獲得は現実的な動きではなさそうだ。そのため、こちらの案はラプターズがYESと言わないだろう。

候補2:ブルックリン・ネッツ

To Brooklyn: Siakam and Jalen McDaniels
To Toronto: Spencer Dinwiddie, Royce O’Neale, Nic Claxton, Cam Thomas, best 2027 first-round pick between Philadelphia (top-eight protected) and Phoenix (adding top-four protection)

中堅の堅実な選手が多いネッツでラプターズが求めるのは、インサイドの核になりえるニック・クラクストンだろろう。また、再建に入る可能性が低くないネッツの将来の指名権は魅力的なアセットではある。また、ロイス・オニールやスペンサー・ディンウィディは今シーズンで契約満了であるため、若手選手の再契約のためのサラリーキャップに変えることもできる。しかし、クラクストンも今季で契約終了となるため、ラプターズにとってサラリーキャップを空ける以上の見返りは大きくないだろう。

また、ネッツにとっても有力な選手と指名権を放出し、レンタル移籍になりかねないシアカムを獲得することは将来的なチーム構築の柔軟性を失う可能性が低くないため、両チームにとって魅力的な取引にはなりにくいと思われる。

To Brooklyn: Siakam, Thaddeus Young, Otto Porter Jr., Chris Boucher and McDaniels
To Toronto: Ben Simmons, Dorian Finney-Smith, O’Neale and Claxton

ネッツにとってはシアカムを中心に堅実なチームを即席で構築できる可能性が高いが、ほとんどの選手が今シーズンで契約が切れるため、ベン・シモンズのサラリーを処理するという意味ではメリットのある取引になる。

一方で、ラプターズの視点では2025年までにバーンズ、バレット、クイックリー、ポートルらに約20Mを支払うことになっているため、シモンズの契約を良しとするかはかなり厳しいものがありそうだ。

候補3:デトロイト・ピストンズ

To Detroit: Siakam
To Toronto: Jaden Ivey, Joe Harris, James Wiseman and 2026 first-round pick (top-four protected)

ピストンズは厳しいシーズンを送っており、おそらく2024年ドラフト上位指名権の獲得は確実な位置にいる。そのため、ピストンズがシアカムを獲得したとしても28歳のシアカムと再契約するとは考えにくい。そうだとすれば、伸び悩んでいるとはいえ、実質1巡目3枚を無料で放出するに等しい愚行だ。

一方でラプターズにとってはジェイデン・アイビーという若手SGや伸び悩んでいるビッグマンであるジェームズ・ワイズマンを獲得できるのは魅力的なアセットといえるし、2026年の指名権もロッタリーに近いことが予想されるため価値が高い。

ラプターズにとっては非常に魅力的だが、ピストンズにとってのメリットがあまりに無さすぎるため、このトレード案が成立するとは考えにくい。もし優勝候補の第3のチームがシアカム獲得に触手を伸ばすようであれば、成立の可能性はなくはないという感じではないだろうか。

候補4:オクラホマシティ・サンダー

To Oklahoma City: Siakam
To Toronto: Dāvis Bertāns, Lu Dort, Cason Wallace, Houston 2024 first-round pick (protected top-four) and better of 2025 Miami (protected 1-14, unprotected in 2026) or Philadelphia (protected top-four) first-round picks

有望な若手選手が躍動し、大きな躍進を果たしているサンダーはビッグウィングを探しており、優勝経験のあるシアカムに興味を持つ可能性はある。シャイ=ギルジャス・アレクサンダー、ジェイレン・ウィリアムズ、チェット・ホルムグレンらにシアカムを加えたロスターは魅力的で、近い将来の優勝を目指すのであればシアカム獲得に触手を伸ばしても不思議ではない。また、サンダーには豊富なドラフト指名権を持っており、それもシアカム獲得に大きな後押しになるだろう。一方で今シーズンにすぐに優勝できるという状況かというと微妙であり、今シーズンで契約が切れるシアカムの獲得にはリスクが伴うし、若手メンバーの契約問題を考えるとシアカムが要求していると言われているMAX契約を出す余裕はないだろう。サンダーとしては難しい選択を迫られることになる。

ラプターズにとってはバックコートに強度の高いディフェンスをもたらせ、地元出身のルーゲンツ・ドートの獲得は魅力的なアセットだ。また、若手PGのケイソン・ウォーレスも楽しみな選手であり、ラプターズにとって魅力的だ。

サンダーとラプターズにとっては双方に魅力的な取引であり、指名権を多く保持するサンダーにとっては失敗した場合のリカバリーも他チームに比べると優位な立場にいるといえる。しかし、シアカムの再契約問題が一抹の不安として残るのは間違いない。また、ディフェンスの要であるドートの放出が、好調サンダーにどのような影響を与えるかは未知数だ。

候補5:ダラス・マーベリックス

To Dallas: Siakam
To Toronto: Grant Williams, Tim Hardaway Jr., Josh Green, Olivier-Maxence Prosper, 2025 second-round pick (originally belonging to Toronto), 2026 first-round pick

マーベリックスはルカ・ドンチッチとデレック・ライブリー2世はプロテクトしていると言われているが、地元カナダのルーキーであるオリビア・マクセンス・プロスパーがアセットに含まれるならラプターズは興味を持つかもしれない。23歳のジョシュ・グリーンは以前にもラプターズが興味を持っていたという噂があり、これから3年契約がスタートするという状況も魅力的だ。また、グラント・ウィリアムズの獲得は若手中心に生まれ変わっていくラプターズで堅実な働きをしてくれる貴重な選手になれる。しかしマーベリックスは放出できるドラフト指名権が限られており、その辺がトレード成立の支障になる可能性はあるかもしれない。

一方でマーベリックス側から見ると、ドンチッチ、カイリーにシアカムが加わったロスターは魅力的だ。インサイドにフィニッシャーの役割をこなせるシアカムを加えることで、ドンチッチの負荷を減らしながらインサイドに核を持つことができる。さらに、ボールシェアの問題で十分に機能しているとは言い難いグリーンやハーダウェイJr.を整理しつつ、ナゲッツのアーロン・ゴードンのような役割が期待できるシアカムの獲得は面白い案になるだろう。リーグを代表する選手が在籍しているマーベリックスはシアカムの再契約問題でも優位になれる可能性もあり、現時点ではお互いにメリットのあるトレードになる可能性がある。

候補6:ゴールデンステイト・ウォリアーズ

To Golden State: Siakam
To Toronto: Chris Paul, Jonathan Kuminga, 2026 and 2028 first-round picks

ウォリアーズは主力の高齢化によって以前の支配力に陰りが見え始めているが、ステフィン・カリー中心の構造で最後の優勝を目指すのであればシアカムの獲得に動く可能性はある。その際のアセットとしては、起用に不満を持っていうと言われているジョナサン・クミンガと指名権を中心としたアセットになるだろう。クミンガは魅力的な若手ウイングであり、2024-25シーズンのクリス・ポールは無保証契約なのもラプターズにとって大きなメリットである。

ウォリアーズにとってはフィット感が薄かったポールを放出しつつ、オフェンス力のあるビッグウイングを獲得できることは魅力的ではある。一方で指名権と若手の放出は確定的であり、カリーをはじめ、衰えがみられるクレイ・トンプソンやドレイモンド・グリーンらの引退後に焼野原になる危険性を孕んでいる。

To Golden State: Siakam
To Toronto: Andrew Wiggins, Moses Moody, 2026 first-round pick

クミンガの代わりにモーゼス・ムーディ、クリス・ポールの代わりにアンドリュー・ウィギンズを加えたパターンであるが、基本的にはクミンガ+ポールの別パターンであり、基本的なメリット / デメリットはほぼ同じだ。
しかし、ラプターズのロスター構成や潜在能力的にクミンガを要求すると考えられ、こちらの案の成立はより難しいだろう。

パスカル・シアカムはどこに行くのか?

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巷で噂されているトレード案について一通り見てきたが、発展途上のチームにとってシアカムの獲得はタイムラインやチーム作りの面で齟齬が生じており、現状で双方にメリットがありそうなトレード案はサンダーとマーベリックスが有力なように思われる。特にマーベリックスは両チームのニーズが満たされる可能性が高い。

しかし、いずれのプランもシアカムの契約が今季で終わることで、対価を支払ったにも関わらず数か月の稼働だけで終わってしまうリスクがあるということがネックとなる。ましてやシアカムが報道されている通りに5年MAX契約を求めるとするとチーム構築の柔軟性を著しく悪化させる可能性が高まるため、多くのGMはシアカムとのMAX契約にかなり慎重になるはずだ。特にペイサーズやサンダーのように若手中心でプレーオフを現実的に目指しているチームにとっては、28歳のシアカムとの大型契約に魅力を感じるかというとかなり微妙なラインだろう。

シアカムはオールスター出場経験があるフォワードであり、普通であればトレードの注目株であるが、今季で契約満了であり、トレード先のチームにとっては再契約が結べない場合は今季限りのレンタル移籍のような状況になりかねない。win-nowの優勝候補以外のチームは半年間のレンタル移籍のために、若手選手や指名権を放出するののはリスクが大きすぎる。これが、シアカムのトレードがなかなかまとまらない理由と思われれる。

このような事情からwin-nowなチーム以外は非常に手を出しにくい状況だといえる。現実的には下記のプランが有力ではないだろうか。

① 3チーム間トレードで強豪のラストピースとしてトレードされる
② 来オフにFA市場にでて高額契約を狙う
③ 来オフにサイン&トレードを狙う

若手中心の新興チームにとって、タイムライン面でも契約面でもシアカムは魅力的なアセットではなく、ラプターズが複数の1巡目選手や指名権を求めていることも取引のマイナス要因となる。

2024年2月8日(現地時間)のトレードデッドラインまで、シアカムの動向はNBA界隈を賑やかすだろうが、今シーズン終了までラプターズに在籍し、優勝を目指す強豪チームへのサイン&トレードを模索するシナリオもなくはない。

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