【コラム】契約問題を抱えるオラディポが、シーズン出場を示唆する狙いとは

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インディアナ・ペイサーズのエースのビクター・オラディポは、オーランドで開催されるポストシーズンへの不参加を表明していたが、7月15日に参加の可能性を示唆した。

オラディポは2019年1月に右膝大腿四頭筋の断裂という大怪我を負い、2020年1月29日に復帰した。しかし、復帰後のパフォーマンスは精細を欠き、平均26.0分の出場で13.8点、3.0アシスト、3.2リバウンドという成績は全盛期のオラディポと比較すると物足りない数字だ。

2021年に完全FAとなるオラディポにとって、ポストシーズンへの参加はセンシティブなものになる。怪我前のパフォーマンスができないと評価を下げる可能性があり、再び大怪我をするリスクもある。オラディポに限らず、こうしたリスクを鑑みて2019-20ポストシーズンへの不参加を表明する選手も少なくない。

では、このタイミングでオラディポがポストシーズンへの参加を示唆した狙いは何だろうか?

目次

1:好条件での契約オファーの獲得

MIPを受賞した2017-18シーズンの成績は平均23.1点、4.3アシスト、5.2アシスト、2.36スティールと攻守で獅子奮迅の活躍を見せており、将来のMVP候補とも目されていた。しかし前述の通り、復帰後のオラディポは本来の出来ではなかった。出場時間がセーブされているためスタッツが下がるのは必然だが、パフォーマンスが安定せず、プレーが断片的になっている印象を受けた。新加入のTJ・ウォーレンやマルコム・ブログドンとの相性も未知数のままだ。

シーズン中にペイサーズがオファーしたとされる4年8,000万ドルという条件は、怪我前のオラディポであれば格安といえるものであり、本来であれば「4年1億5,000万ドル」程度でも高すぎる契約ではない。ペイサーズが4年8,000万ドルという格安オファーをした背景には少なからず怪我の影響もあるはずだ。

2021年にFAとなるオラディポにとって、ポストシーズンから来季にかけてのパフォーマンスは非常に重要だ。ペイサーズに残留するにせよ、FA市場に出るにせよ、オラディポが本来の評価を得るためには、離脱前のパフォーマンスが健在であることを証明することが求められる。

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しかし、契約にむけた出場と考えると別の疑問がでてくる。

オラディポがFAとなるのは2021年であり、COVID-19の影響でシーズンが不透明とはいえ、あと1シーズン残っている。オーランドでのポストシーズンに不参加を表明する選手も少なくない中、オラディポも万全の状態で2020−21シーズンに再起を図っても遅くはないはずだ。

2:今季サラリーの受け取り

契約関連でいくと、今季のサラリーの問題が考えられる。

シーズン再開後のゲームに出場しなかった場合、オーランドでのゲーム分のサラリーは選手に支払われないとされており、プレーオフ1回戦だけでもオラディポにとって280万ドルから320万ドルの損失になると試算されている。

この金額は今後の動向が不安定な中では少なくないサラリーだが、それでも現状の2,100万ドルの大半は支払われており、オラディポにとって怪我のリスクをとってまで出場することに値する金額であるかというと疑問もある。むしろ、バブル(オーランドにあるディズニー・ワールド内の隔離エリア)での試合には出場せず、2020-21シーズンに万全の状態でプレーする方が、契約交渉は有利に働く可能性がある。

キャッシュフローによほど困っていれば別だが、サラリーのために今季のポストシーズンをプレーするという判断をするとは考えにくい。

3:今季をチャンスと捉えている

オラディポはポストシーズンでプレーを行わない意思を表明していたが、バブルには帯同している。出場する気がそもそもないのであれば、オラディポがバブルに入る意味は少ない。バブルに入れる人数には制限が設けられており、欠場確定の選手をバブルに入ることはチームとしても歓迎できることではない。

COVID-19の影響は非常に大きく、各チームとも多かれ少なかれポストシーズンに参加できないメンバーが出ている。シーズンが中断したことによる怪我のリスクや無観客試合に対する是非、人種差別問題といった複数の問題によって参加を躊躇する選手も少なくないことから、今季のプレーオフは前例のないゲームになることは間違いない。シーズンが中断して4ヶ月経つことからも、ある種の新シーズンといえる。

毎年、シーズン序盤にアップセットを起こすチームがあるように、環境やチームの変化は勝敗に大きな影響をあたえる。単純な戦力ではバックスやセルティックスなどの強豪に遅れをとっているペイサーズだが、プレーオフ進出が確定している中で仕切り直しとなる今プレーオフはチャンスとも捉えられる。

プレーメイクと得点源として機能するブログドン、インサイドの要となるドマンタス・サボニスとマイルス・ターナー、そして第2の得点源となるウォーレンと、ペイサーズのロスターは知名度こそ低いが実力派の選手が揃っている。イースタン5位に位置していることが、その証左だろう。オラディポの健康状態が良好で、練習試合を通してシーズン中に確認できなかったブログドンやウォーレンとの連携に自信を持つことができれば、イースタンの上位を伺うことも非現実的な話ではない。

再開シーズンは今後の大きく影響する

ペイサーズのロスターも怪我やCOVID−19の影響で流動的ではあるが、現在のロスターで手応えを得ることができるか否かは、2020-21シーズン意向のチーム運営に大きな意味を持つ。その中心にあるのは、オラディポの再契約問題だ。

オラディポが現在のチームで勝つ見込みがないと判断すればFAで強豪に移籍するか、シーズン中のトレードを打診する可能性もある。逆に手応えを得ることができれば、サボニスと4年の延長契約を結んだこともあり、あと数年はチームの核を変えずに戦うことができる。ペイサーズにとってもオラディポにとっても、今後の動きを見極める上で非常に重要なシーズンといえる。

ペイサーズはスモールマーケットゆえに大物FAを獲得することが難しいというチーム事情を抱えている。レジー・ミラー、ダニー・グレンジャー、ポール・ジョージといった歴代エースはドラフトで獲得した選手であり、ジャーメイン・オニールやジェイレン・ローズはトレードで獲得した選手だ。つまり、FAでスーパースターを狙うにはインディアナというマーケットは小さすぎるのだ。チームの財政に余裕がないが故に、完全復活できるかわからないオラディポに対して4年8,000万ドルという安めの契約オファーをしたと推測できる。

オラディポにとってペイサーズとの再契約が完全に構想外であり、初めから試合に出るつもりがないのであればバブルに同行する必要はない。移籍先として数々の噂が流れてはいるが、少なくともペイサーズが勝てるチームか否かを見極めたいと考えているだろう。チームの透明性を重んじるケビン・プリチャード球団社長とチャド・ブキャナンGMが、チーム見解をオラディポに伝えている可能性も高く、バブルに帯同していることからみてもオラディポも前向きに考えているように思う。

インディアナ大学で頭角を現し、ペイサーズ移籍後に大きく飛躍したオラディポにとって、インディアナという土地は縁がない場所という訳ではない。ファンの願望と一笑されるかもしれないが、オラディポが怪我前の状態を取り戻すことで適正な評価で再契約できれば、それに勝ることはないだろう。

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